潜在顧客とは?「まだ知らないお客様」から育てるマーケティング術
目次
「広告を出しても、クリックしてくれるのはいつも同じような人たちばかり…」
「うちの製品カテゴリは、まだ世の中に知られていない。どうやって最初の顧客を見つければいいんだ…」
「事業をさらに成長させたいが、アプローチできる『今すぐ客』はもう刈り尽くしてしまった…」
もしあなたのビジネスが、このような「市場の壁」に突き当たっているとしたら、それは、目に見えている市場だけを相手にしているからかもしれません。あらゆるビジネスには、その背後に、まだあなたの存在すら知らない、広大で未開拓な市場が眠っています。その主役こそが「潜在顧客」です。
本記事では、企業の持続的な成長に不可欠な「潜在顧客」について、その基本的な定義から、具体的なアプローチ手法、そして見込み客へと育成していくための戦略までを、網羅的かつ体系的に解説します。
潜在顧客とは?
まず、潜在顧客という言葉の定義と、関連する顧客層との違いを明確に理解しましょう。
潜在顧客の定義
潜在顧客とは、自社の商品やサービスが解決できるであろう「課題」や「ニーズ」を抱えているものの、まだそれを明確に自覚していない、あるいは自社の商品・サービスを知らない顧客層のことです。「潜在層」とも呼ばれます。
彼らは、あなたの商品名を検索することはありません。なぜなら、その商品が解決する課題自体に、まだ気づいていないからです。
「顕在顧客」「見込み客」との決定的な違い
顧客は、その購買意欲や認知度によって、いくつかの層に分類されます。
| 顧客層 | 課題の自覚 | 自社の認知 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 潜在顧客 | なし | なし | まだ出会っていない、未来のお客様。「まだまだ客」 |
| 見込み客 | あり | あり | 課題解決のために情報収集中。いわゆる「リード」 |
| 顕在顧客 | あり | あり | 購買意欲が高く、比較検討中。「今すぐ客」 |
| 既存顧客 | - | - | 既に購入・利用してくれているお客様 |
顕在顧客が、氷山の一角である「今すぐ客」だとすれば、潜在顧客は、その水面下に広がる、巨大な氷山の本体そのものなのです。
なぜ、事業の成長に「潜在顧客へのアプローチ」が不可欠なのか?
顕在顧客向けのマーケティングは、既に需要のある市場での「パイの奪い合い」です。競争が激しく、獲得単価(CPA)は高騰しがちです。一方で、潜在顧客へのアプローチは、新たな需要を掘り起こし、未来の市場そのものを創造する活動です。ライバルがいない未開拓の地で、最初の旗を立てることができます。持続的な事業成長のためには、この潜在顧客へのアプローチが不可欠なのです。
【5ステップで実践】潜在顧客を「優良顧客」に変えるフルファネル戦略
潜在顧客は、適切なコミュニケーションを通じて、時間をかけて優良顧客へと育っていきます。その全体像を5つのステップで解説します。
STEP1:【ペルソナ設計】どんな課題を抱えている可能性があるかを定義する
潜在顧客は、まだ自社のことを知りません。まずは、「自社の製品が解決できる課題から逆算して、どのような属性・状況の人が、その課題を抱えている可能性が高いか」という仮説に基づいたペルソナを設計します。
STEP2:【アプローチ】課題に「気づかせる」ための接点を作る
設計したペルソナが、日常的に接触するであろうチャネル(SNS、Webメディア、広告など)を通じて、「あなたは、もしかしてこんな課題を抱えていませんか?」という"問題提起"型のコンテンツを届け、課題への「気づき」を促します。
STEP3:【リード化】「見込み客」へと転換させる
課題に気づいた潜在顧客が、より深い情報を求めて、あなたのWebサイトを訪れます。そこで、課題解決のヒントとなる、より詳細な資料(ホワイトペーパーなど)を用意し、ダウンロードと引き換えに連絡先情報を登録してもらい、「見込み客(リード)」へと転換させます。
STEP4:【育成】リードナーチャリングで、信頼関係を築く
見込み客になったからといって、すぐに商品を買うわけではありません。メールマガジンやセミナーなどを通じて、継続的に有益な情報を提供し、課題解決のパートナーとしての信頼関係を築きながら、徐々に購買意欲を高めていきます(リードナーチャリング)。
STEP5:【顕在化】ニーズが明確になった瞬間に、刈り取る
育成の過程で、顧客のニーズが明確になり、具体的な検討段階に入った瞬間(=顕在化した瞬間)を捉え、営業部門がアプローチし、商談・受注へと繋げます。
潜在顧客にアプローチするための、具体的なマーケティング手法7選
手法1:コンテンツマーケティング(SEO)
潜在顧客が、自身の漠然とした悩みや課題について検索するであろうキーワード(例:「営業 効率悪い」)で上位表示されるような、課題解決型のブログ記事を作成し、自然な形で接点を持ちます。
手法2:SNSマーケティング(Facebook, Instagram, Xなど)
ペルソナが利用するSNSで、彼らの興味を引きそうな、共感を呼ぶコンテンツ(動画、インフォグラフィックなど)を発信し、ブランドや課題への認知を広げます。
手法3:ディスプレイ広告・動画広告
ターゲットペルソナの属性(年齢、興味関心など)に合わせて、WebサイトやYouTubeなどで広告を配信し、視覚的にインパクトを与え、課題を啓蒙します。
手法4:プレスリリース・PR活動
メディアを通じて、自社の取り組みや、社会課題に対するメッセージを発信することで、幅広い層への認知と、信頼性の高いブランディングを実現します。
手法5:オフラインセミナー・イベント
ターゲットが集まる業界イベントへの出展や、自社でのセミナー開催を通じて、直接対話の中から潜在的なニーズを掘り起こします。
手法6:マス広告(テレビCM、雑誌など)
新しい市場そのものを創造したい場合など、非常に広範な層に一気にアプローチする上で、今なお強力な手法です。
手法7:リファラル(口コミ・紹介)
既存顧客からの紹介は、潜在顧客の心を開く上で非常に強力な信頼の証となります。
課題を自覚していない潜在顧客の「心に響く」コンテンツの作り方
製品を売るな、"問題提起"を売れ
潜在顧客は、あなたの製品には興味がありません。彼らが反応するのは、「え、それって私のことかも?」と感じる、自分ごと化できる「問題提起」です。製品の機能やメリットを語る前に、まず「あなたは、こんなことで損をしていませんか?」と、彼らがまだ気づいていない課題を、分かりやすく提示することから始めましょう。
読者の「共感」を呼ぶ、ストーリーテリングの活用
単に事実を羅列するのではなく、ペルソナと同じような主人公が、ある課題に直面し、それを乗り越えて成功する、という「物語(ストーリー)」として語ることで、読者は感情移入し、その課題をより深く自分ごととして捉えるようになります。
BtoBとD2C、それぞれのコンテンツアプローチの違い
| 区分 | 有効なコンテンツの特徴 | 具体例 |
|---|---|---|
| BtoB | 潜在顧客のビジネス上の課題に焦点を当て、解決策をロジカルに提示するコンテンツが有効。 | ホワイトペーパー、調査レポート、ウェビナーなど |
| D2C | 潜在顧客のライフスタイルや価値観に寄り添い、共感を呼ぶコンテンツが有効。ブランドの世界観を伝えることがポイント。 | SNSでのビジュアルコンテンツ、ブランドストーリーコンテンツ |
潜在顧客アプローチの成果を測るためのKPI
潜在顧客へのアプローチは、すぐに売上に繋がるわけではありません。適切なKPIを設定し、長期的な視点で成果を測ることが重要です。
認知度・エンゲージメントに関する指標
- Webサイトのアクセス数、新規ユーザー数
- SNSのインプレッション数、フォロワー数、エンゲージメント率
- 指名検索数
リード獲得に関する指標
- コンテンツ経由の資料ダウンロード数(CVR)
- メールマガジンの登録数
- リード獲得単価(CPL)
長期的なROIの考え方
最終的には、潜在顧客向け施策から生まれたリードが、どれだけの期間を経て、どれくらいの売上に繋がったかを計測し、施策全体の投資対効果(ROI)を評価します。
潜在顧客に関するQ&A
Q. 潜在顧客は、どこにいるのでしょうか?
A. あなたの会社の外、あらゆるところに存在します。 彼らを見つける鍵は、「自社の製品が解決できる課題は何か?」を徹底的に考え抜くことです。その課題を抱えている可能性がある人々が、普段どのようなWebサイトを見て、どのようなSNSを使い、どのようなイベントに参加するかを想像することで、彼らがどこにいるかが見えてきます。
Q. 潜在顧客へのアプローチは、効果が出るまでどのくらいかかりますか?
A. 半年〜1年以上の長期的な視点が必要です。潜在顧客が、課題を認知し、情報収集を経て、比較検討段階に入るまでには、相応の時間がかかります。焦らず、継続的に価値を提供し続けることが、未来の大きな成果に繋がります。
Q. 顕在顧客向けの施策と、予算配分はどうすれば良いですか?
A. 両方をバランス良く行うことが理想です。 一般的には、短期的な売上を確保する「顕在顧客向け施策」に多くの予算を割きつつ、将来の成長のための「潜在顧客向け施策」にも、全体の10%〜30%程度の予算を投資することが推奨されます。
まとめ
本記事では、まだ見ぬ未来のお客様である「潜在顧客」の定義から、具体的なアプローチ手法、そして優良顧客へと育成していくための戦略までを網羅的に解説しました。
潜在顧客へのアプローチは、単なる集客手法の一つではありません。それは、顧客がまだ気づいていない課題を啓蒙し、新たな需要を喚起し、時には新しい文化を創造していく、極めて戦略的で、創造的な活動です。
目の前の海で魚を獲るだけでなく、その先に広がる、まだ誰も知らない豊かな大海原へと、新たな航路を切り拓いていく。この記事が、あなたのビジネスを、そんな壮大な冒険へと導く、最初の海図となれば幸いです。