営業とカスタマーサクセスの連携方法は?最強チームの作り方を徹底解説
目次
「営業が無理な約束をして受注し、後工程のカスタマーサクセス(CS)が苦労している…」
「CSからは『もっと顧客情報を正確に引き継いでほしい』と言われ、営業からは『CSのフォローが足りないから解約されるんだ』と不満が噴出している…」
「いつの間にか、営業とCSが対立し、顧客そっちのけで社内の責任の押し付け合いになっている…」
もしあなたの会社で、このような悲劇的な状況が起きているとしたら、それは事業成長における極めて危険なサインです。特にSaaSをはじめとするサブスクリリプションモデルにおいて、「営業」と「カスタマーサクセス」の連携は、企業の未来を左右する生命線と言っても過言ではありません。
本記事では、現代のBtoBビジネス、特にSaaSモデルにおいて事業成長の鍵を握る「営業」と「カスタマーサクセス」の連携について、その本質的な重要性から、具体的な連携プロセス、そして成功に導くための組織文化の作り方までを、網羅的かつ体系的に解説します。
営業とカスタマーサクセス、なぜ両者の連携が企業の「生命線」なのか?
「売って終わり」の時代の終焉と、LTV経営へのシフト
かつての「売り切り型」ビジネスでは、営業が契約を受注した時点がゴールでした。しかし、月額課金などが主流のサブスクリプションビジネスでは、顧客に継続的に価値を感じてもらい、長く利用し続けてもらうこと(=LTVの最大化)が、事業成長の絶対条件です。ビジネスの主戦場は、「売るまで」から「売った後」へと完全にシフトしたのです。
多くの企業が陥る、営業とCSが「対立」する悲劇的な構造
この新しいビジネスモデルにおいて、新規契約を獲得する「営業」と、契約後の顧客を支援する「カスタマーサクセス」は、本来、車の両輪であるはずです。しかし、それぞれの役割や目標(KPI)が分断されていると、以下のような悲劇的な対立構造が生まれます。
| 区分 | 不満の内容 | 例文 |
|---|---|---|
| 営業 → CSへの不満 | 「せっかく受注した顧客を解約させてしまう」という、契約後の顧客維持に対する不満。 | 「なぜ、せっかく受注した顧客を解約させてしまうんだ!」 |
| CS → 営業への不満 | 営業が無茶な約束で受注することや、顧客情報の共有不足に対する不満。 | 「そもそも、無茶な約束で受注しているからだ!」「顧客情報が全く共有されていない!」 |
この対立は、社内の雰囲気を悪化させるだけでなく、顧客体験を著しく損ない、最終的に企業の成長を蝕んでいきます。
【徹底比較】そもそも、営業とカスタマーサクセスの役割はどう違うのか
連携を語る前に、まず両者の役割の違いを明確に理解することが重要です。
ミッションの違い:「狩猟(新規獲得)」 vs 「農耕(育成・維持)」
営業(Sales)
まだ顧客ではない見込み客を見つけ出し、契約を勝ち取る「狩猟」のような役割を担います。短期集中的な活動で、ゼロから1を生み出すことがミッションです。
カスタマーサクセス(CS)
契約後の顧客という畑を耕し、作物が豊かに実るように(=顧客が成功するように)長期的に支援し続ける「農耕」のような役割です。1を100に育てていくことがミッションです。
KPIの違い:受注金額 vs LTV・チャーンレート
営業の主なKPI
受注金額、受注件数、新規MRR(月次経常収益)など、新規契約の獲得に関する指標。
CSの主なKPI
チャーンレート(解約率)、LTV(顧客生涯価値)、アップセル・クロスセル額、NPS®(顧客推奨度)など、既存顧客の維持と成長に関する指標。
求められるスキルの違い
営業に求められるスキル
課題発見力、プレゼンテーション能力、交渉力、クロージング能力など。
CSに求められるスキル
傾聴力、共感力、課題解決能力、プロジェクトマネジメント能力、コンサルティング能力など。
【5ステップで実践】対立を「協調」に変える、最強の連携プロセス構築術
では、どうすれば対立を乗り越え、最強のタッグを組むことができるのでしょうか。そのための5つのステップを紹介します。
STEP1:【ビジョンの共有】「顧客の成功」という、組織共通の北極星を掲げる
全ての始まりは、ビジョンの共有です。営業もCSも、「私たちのビジネスは、顧客の成功なくしては成り立たない」という共通の価値観(北極星)を、経営層が率先して掲げ、組織全体で共有することが不可欠です。
STEP2:【役割の再定義】The Modelを参考に、責任範囲を明確化する
共通のビジョンの上で、The Modelなどのフレームワークを参考に、マーケティング、インサイドセールス、営業(フィールドセールス)、カスタマーサクセスそれぞれの役割と責任範囲(KGI/KPI)を明確に定義します。これにより、「それは自分の仕事ではない」といった責任の押し付け合いを防ぎます。
STEP3:【引継ぎの仕組み化】「営業→CS」のシームレスな情報連携プロセスを設計する
連携における最大のボトルネックである、受注後の顧客情報の引継ぎ(ハンドオフ)プロセスを徹底的に仕組み化します。「いつ」「誰が」「何を」「どのように」情報を連携するのか、具体的なルールとフローを設計します。
STEP4:【目標の共有】両部門が共に追いかける、共通のKPIを設定する
それぞれの部門KPIに加えて、両部門が共通で追いかける連携KPIを設定することが、協力関係を築く上で極めて有効です。これにより、「自分たちだけが良ければいい」という部分最適から脱却し、全体最適の視点が生まれます。
STEP5:【対話の場の設定】定期的な合同レビュー会議で、PDCAを回す
週次や月次で、営業とCSの合同レビュー会議を設定しましょう。成功事例や失敗事例を共有し、引継ぎプロセスの問題点を議論し、共通KPIの進捗を確認する。この継続的な対話の場が、生きた連携を創り出すのです。
【最重要】成功の鍵を握る「引継ぎ(ハンドオフ)」プロセスの作り方
なぜ、引継ぎの情報共有は失敗するのか?
多くの企業で、引継ぎが口頭やメールでの簡単な連絡で済まされています。これでは、営業担当者の頭の中にしかない「顧客の生の情報(期待値、懸念点、キーパーソンの人柄など)」が失われ、CS担当者はゼロから顧客を理解し直さなければなりません。
営業がCSに伝えるべき、10の必須情報リスト
引継ぎの際は、以下の情報をSFA/CRM上で、テンプレートとして必ず共有するルールを設けましょう。
- 顧客の基本情報
- 契約プラン・金額
- 導入の背景と、顧客が最も解決したかった課題
- 顧客が最終的に目指すゴール(成功の定義)
- 商談の過程で、顧客が特に重視していた点
- 逆に、顧客が懸念していた点
- 営業担当者が、顧客と交わした「約束事」
- 組織内のキーパーソンと、それぞれの役割・人柄
- これまでの主なコミュニケーション履歴
- CS担当者への特記事項(アップセルの可能性など)
SFA/CRMを活用した、スムーズな情報連携の仕組み
上記の引継ぎ情報を、SFA/CRMの特定の項目に入力することを、営業の受注プロセスの「必須事項」として組み込みます。そして、受注ステータスが「完了」になった瞬間に、自動的にCS部門の担当者に通知が飛び、全ての関連情報が閲覧できる、というワークフローを構築することが理想です。
営業とCSが共に追うべき、連携KPIの具体例
LTV(顧客生涯価値)/ CAC(顧客獲得コスト)
顧客一人あたりの生涯価値(LTV)が、その顧客を獲得するためにかかったコスト(CAC)を十分に上回っているか。この比率(ユニットエコノミクス)は、ビジネス全体の健全性を示す、両部門が共に責任を負うべき最重要指標です。
Net Revenue Retention Rate(売上継続率)
既存顧客からの総収益が、前年同月(あるいは前月)と比較してどれだけ増減したかを示す指標。解約によるマイナスと、アップセル・クロスセルによるプラスを合算して算出するため、両部門の連携成果を最も正確に表す指標の一つです。
アップセル・クロスセル金額
既存顧客からの追加売上は、CSが顧客の成功を支援し、営業が適切なタイミングで提案するという、まさに連携プレーの賜物です。
【キャリア編】営業からカスタマーサクセスへのキャリアチェンジ
営業経験がカスタマーサクセスで活きる理由
顧客の課題をヒアリングし、解決策を提示するというプロセスは、営業もCSも共通しています。営業で培った課題発見能力や、対人コミュニケーション能力、目標達成意欲は、CSMとして活躍する上で非常に強力な武器となります。
求められるマインドセットの転換
短期的な「受注」をゴールとする営業に対し、CSは顧客との「長期的で継続的な関係」をゴールとします。この時間軸の長さの違いと、「売る」から「成功を支援する」へのマインドセットの転換が、キャリアチェンジを成功させる上で最も重要です。
営業とカスタマーサクセスの連携に関するQ&A
Q. 営業担当者が、CSの重要性を理解してくれません。
A. CSの活動が、いかに営業担当者自身のメリットに繋がるかを、データで示すことが有効です。「CSが支援した顧客は、LTVが高いだけでなく、優良な紹介(リファラル)を生み、結果として営業の新しい商談創出に繋がっている」といった事実を示すことで、協力体制を築きやすくなります。
Q. 中小企業で、営業がCSを兼任するのはアリですか?
A. 事業の初期段階では、十分にアリです。 むしろ、一人の担当者が受注から成功支援までを一気通貫で担当することで、顧客理解が深まるというメリットもあります。ただし、事業が拡大するにつれて、求められるスキルやKPIが異なるため、将来的には部門を分けることを見据えておくべきでしょう。
Q. 連携を強化するために、明日からできることは何ですか?
A. まずは、営業とCSのエース社員同士で、合同の案件レビュー会を開くことから始めてみましょう。お互いの仕事への理解とリスペクトが生まれ、連携の最初の成功事例を作るきっかけになります。
まとめ
本記事では、営業とカスタマーサクセスが対立を乗り越え、最強のチームとなるための具体的な連携プロセスと、その考え方について解説しました。
営業が顧客と交わす「あなたの課題を解決します」という約束。その約束が、契約後も、そして未来永続的に守られ続けることを保証する活動こそが、カスタマーサクセスです。
両部門のシームレスな連携は、単なる組織論ではありません。それは、あなたの会社が、顧客に対して「一度結んだご縁を、決して裏切りません」と誓う、究極の約束の証なのです。