もう契約書で悩まない!テンプレートの正しい使い方と必須項目を分かりやすく解説
目次
「クライアントから『契約書を用意して』と頼まれたものの、何から始めれば良いか分からない…」。そんな経験はありませんか?口約束は、後々の「言った言わない」といったトラブルの元になりかねません。契約書は、あなたとビジネスを不測の事態から守るための、非常に重要なルールブックです。
この記事では、契約書作成の全手順から、必ず記載すべき必須項目、間違いやすい注意点、そして最新の電子契約の基本までを網羅的に解説します。この記事一本で、契約業務の不安を解消し、自信を持って取引を進められるようになります。
【7ステップ】契約書作成の基本フロー
契約書作成は、以下の7つのステップで進めるのが一般的です。一つひとつのステップを着実にこなしていきましょう。
- 目的と当事者の明確化
- 合意事項の整理
- 雛形(テンプレート)の選定・活用
- 必須記載事項の盛り込み
- 内容のレビュー・修正
- 製本・押印(または電子署名)
- 収入印紙の貼付・保管
ステップ1:契約の目的と当事者を明確にする
まず最初に、「何のための契約なのか」「誰と誰が契約するのか」をはっきりさせます。
契約の目的
例えば、「Webサイト制作を委託する」「商品の売買を行う」「コンサルティングを依頼する」など、取引の核心となる目的を明確にします。
当事者
契約を結ぶ双方の情報を正確に確認します。法人の場合は登記上の正式名称、本店所在地、代表者名を、個人の場合は氏名と住所を確認します。
ステップ2:契約内容の骨子(合意事項)を整理する
次に、契約に盛り込みたい内容、つまり相手と合意したい事項を箇条書きで洗い出します。この時点では法的な文章でなくても構いません。5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、いくらで)を意識すると、抜け漏れが防ぎやすくなります。このメモが、後の契約書作成の土台となります。
ステップ3:雛形(テンプレート)の選定と活用
ゼロから契約書を作成するのは非常に困難なため、多くの場合、雛形(テンプレート)を活用します。テンプレートはあくまで「たたき台」と考え、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。(詳しくは後述の「雛形・テンプレート利用のメリットと致命的なリスク」で解説します)
ステップ4:必須記載事項を盛り込む
ステップ2で整理した合意事項と、ステップ3で選んだ雛形を基に、契約書の条文を作成していきます。この際、どのような契約書にも共通して記載すべき「必須事項」が漏れていないかを確認することが極めて重要です。必須事項の具体的な内容は、次の章で詳しく解説します。
ステップ5:当事者間で内容をレビュー・修正する
契約書のドラフト(初稿)が完成したら、相手方に送付し、内容を確認してもらいます。一方的に不利な内容になっていないか、認識のズレがないか、お互いが納得できるまで、誠実に協議・修正を繰り返しましょう。修正のやり取りは、メールなど記録に残る形で行うのが安全です。
ステップ6:製本・押印(または電子署名)
双方が内容に合意したら、契約の締結です。書面の場合は2部印刷し、署名・押印します。複数ページにわたる場合は、ページの差し替えを防ぐため、製本し、製本テープと紙面にまたがって押印(契印)するのが一般的です。電子契約の場合は、電子契約サービス上で電子署名を行います。
ステップ7:収入印紙の貼付と保管
特定の契約書(課税文書)には、収入印紙を貼付する義務があります。契約締結後は、契約書を大切に保管します。契約期間中はもちろん、契約終了後も一定期間(少なくとも5年~10年)は保管しておくことが望ましいです。
【項目別】契約書に必ず記載すべき10の必須事項
ここでは、多くの契約書に共通して含まれる基本的な項目を10個ご紹介します。「なぜこの項目が必要なのか?」という理由と共に理解を深めましょう。
【必須事項一覧表】
| No. | 項目名 | 概要(何を決める項目か?) |
|---|---|---|
| 1 | 表題 | 契約の種類(例:「業務委託契約書」)を記し、内容を分かりやすくする。 |
| 2 | 当事者の表示 | 契約を結ぶ人や会社(甲・乙)を正確に特定し、誰との契約かを明確にする。 |
| 3 | 契約の目的・内容 | 業務の範囲や成果物を具体的に定め、後々の「言った言わない」を防ぐ最重要項目。 |
| 4 | 契約期間 | 契約がいつからいつまで有効か、開始日と終了日を明確にする。 |
| 5 | 契約金額・支払条件 | 報酬の金額や支払日、方法などを具体的に決め、金銭トラブルを防ぐ。 |
| 6 | 秘密保持義務 | 取引で知った相手の情報を外部に漏らさないという重要な約束事。 |
| 7 | 解除・解約条件 | 問題が発生した場合に、契約を途中で終了させるためのルールを定める。 |
| 8 | 損害賠償 | 契約違反で相手に損害を与えてしまった場合の、賠償に関するルール。 |
| 9 | 管轄裁判所 | 万が一裁判になった場合に、どこの裁判所で審理を行うかをあらかじめ決めておく。 |
| 10 | 契約締結日 | 双方が契約に最終合意した日付を記載し、契約が成立した日を明確にする。 |
1. 表題(何の契約書か)
「業務委託契約書」「売買契約書」など、契約内容を簡潔に示します。一目で契約の種類を識別でき、後の管理がしやすくなるために必要です。
2. 当事者の表示
契約を結ぶ当事者(法人名・代表者名・住所、または個人名・住所)を正確に記載します。「甲」「乙」といった略称で定義し、誰と誰の間の契約なのかを特定します。
3. 契約の目的・内容
具体的に何を依頼し、何を実施するのかを、誰が読んでも分かるように具体的に記載します。業務範囲を明確にし、「これは契約に含まれる業務か、否か」という後のトラブルを防ぐために、最も重要な項目の一つです。
- 具体性の低い例:「甲は乙に対し、ライティング業務を委託する。」
- 具体性の高い例:「甲は乙に対し、甲が運営するウェブサイト『〇〇』に関する記事コンテンツ(1記事あたり3000字以上)の企画、執筆、校正及びWordPressへの入稿作業(以下「本件業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。」
4. 契約期間
契約の開始日と終了日(例:「YYYY年MM月DD日からYYYY年MM月DD日まで」)を明記します。いつからいつまで権利や義務が続くのかを明確にするために必要です。
5. 契約金額・支払条件
報酬や代金の金額、計算方法、支払方法(銀行振込など)、支払時期(例:「納品月の翌月末日限り」)、振込手数料の負担者などを定めます。金銭に関するトラブルを防ぐため、具体的に記載します。
6. 秘密保持義務
契約を通じて知り得た相手方の技術情報、顧客情報などを、第三者に漏洩したり、目的外で使用したりしてはならない義務を定めます。自社の機密情報を守るために必須の条項です。
7. 解除・解約条件
どのような場合に契約を途中で終了できるかを定めます。相手方が契約内容に違反した場合の「解除」や、当事者の合意による「中途解約」の条件を記載し、問題発生時に契約関係を解消できるように備えます。
8. 損害賠償
契約違反によって相手方に損害を与えた場合に、その損害を賠償する義務を定めます。万が一の事態に備え、紛争の深刻化を防ぐためのルールです。
9. 管轄裁判所
契約に関して紛争が生じ、裁判になった場合に、どの裁判所で審理を行うかを定めます(例:「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」)。遠方の裁判所に訴えられるリスクを避けるために定めておきます。
10. 契約締結日
当事者双方が契約内容に最終的に合意し、署名・押印した日付を記載します。いつ契約が成立したのかを明確にする重要な日付です。
契約書作成で絶対に押さえるべき注意点
契約書の内容を固める上で、特に注意すべき点を3つご紹介します。
曖昧な表現は避け、具体的に記載する(一義性の確保)
契約書は、誰が読んでも同じ意味に解釈できるよう、客観的で具体的な表現を用いる必要があります。「できるだけ速やかに」「高品質な」といった曖昧な言葉は避け、「14営業日以内に」「デザイン案を3案提出し2回まで修正を行う」のように、数値や条件で具体的に示しましょう。
公序良俗に反する内容は無効になる
社会の一般的な秩序や道徳観に反する内容(例:犯罪行為を請け負う契約)は、たとえ当事者双方が合意して契約書を交わしたとしても、法的に無効となります。
収入印紙の要否と金額を確認する
印紙税法で定められた「課税文書」に該当する紙の契約書には、収入印紙を貼付する必要があります。電子契約の場合は不要です。必要な印紙を貼り忘れると、過怠税が課されるため注意が必要です。
| 主な課税文書の例 | 契約金額 | 税額(2025年現在) |
|---|---|---|
| 不動産売買契約書 | 100万円超500万円以下 | 2,000円 |
| 工事請負契約書 | 100万円超200万円以下 | 400円 |
| 7号文書(継続的取引の基本契約書) | - | 4,000円 |
※金額等の詳細は国税庁のウェブサイトでご確認ください。
【チェックリスト】作成後に最終確認すべき9つのポイント
契約書に署名・押印する前に、最後の確認として以下の項目をチェックしましょう。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 1. 当事者情報 | 名称・住所・代表者名は正確か?(登記情報と一致しているか) |
| 2. 表題と内容の一致 | 表題と実際の契約内容が一致しているか? |
| 3. 業務内容の具体性 | 業務範囲や成果物の内容は具体的に定義されているか? |
| 4. 金銭条件の明確性 | 金額、支払時期、支払方法は明確か? |
| 5. 期間の明記 | 納期や契約期間は明記されているか? |
| 6. 権利の帰属 | 成果物の権利(著作権など)の帰属は明確になっているか? |
| 7. 秘密保持義務 | 秘密保持に関する条項は含まれているか? |
| 8. 解除条件の妥当性 | 解除条件は自社にとって一方的に不利な内容になっていないか? |
| 9. 管轄裁判所 | 管轄裁判所は合意したものになっているか? |
雛形・テンプレート利用のメリットと致命的なリスク
契約書作成において、テンプレートは便利なツールですが、使い方を誤ると大きなリスクを伴います。
テンプレート活用のメリット・デメリット
| メリット | デメリット(リスク) | |
|---|---|---|
| 効率・コスト面 | 時間とコストを大幅に削減できる。 | 内容が古く、最新の法律に対応していない可能性がある。 |
| 内容面 | 必須項目がある程度網羅されている。 | 自社の取引実態と合わず、必要な条項が不足している場合がある。 |
| リスク面 | 作成のハードルが下がる。 | 自社に一方的に不利な条項を見逃してしまう危険性がある。 |
テンプレートを正しく活用する方法
テンプレートは「たたき台」と割り切り、自社の状況に合わせて修正(カスタマイズ)することが不可欠です。
- 全条項を精読する:まずは全ての条文に目を通し、意味を理解します。
- 自社の取引内容を当てはめる:業務内容、報酬、納期などを、今回の取引に合わせて具体的に書き換えます。
- 条項を過不足なく調整する:自社の取引に関係のない条項は削除し、必要な特約事項(例:再委託の可否)があれば追加します。
- リスクを想定する:「もし相手が納期を守らなかったら?」など、起こりうるトラブルを想像し、その対処法が明記されているかを確認します。
【2025年最新】電子契約書を作成する場合の基本と注意点
近年、コスト削減や業務効率化の観点から「電子契約」の導入が進んでいます。
電子契約と書面契約の違い
電子契約とは、電子データ(PDFなど)で作成した契約書に、電子署名を行うことで締結する契約です。
| 比較項目 | 書面契約 | 電子契約 |
|---|---|---|
| 契約書の実体 | 紙 | 電子データ(PDF等) |
| 署名・押印 | 手書きの署名・押印 | 電子署名 |
| 収入印紙 | 必要(課税文書の場合) | 不要 |
| 送付・締結 | 郵送、対面 | オンラインで完結 |
| 保管 | 書庫などで物理的に保管 | クラウドストレージ等 |
最大のメリットの一つは、課税文書であっても収入印紙が不要になる点です。
電子署名とタイムスタンプの重要性
電子契約が法的に有効な証拠として認められるには、「本人性(誰が作成したか)」と「非改ざん性(作成後に改ざんされていないか)」の証明が重要です。
- 電子署名:書面契約における「押印」に相当し、本人が契約内容に合意したことを示します。
- タイムスタンプ:ある時刻にその電子データが存在し、それ以降改ざんされていないことを証明します。
信頼できる電子契約サービスは、これらの仕組みを提供しています。
電子帳簿保存法との関連
電子契約で締結した契約書は、電子データのまま保存する必要があり、その保存方法は「電子帳簿保存法」で定められています。法律の要件を満たした形で保存する必要があるため、利用するサービスがこの法律に対応しているか確認することが重要です。
自分での作成は難しい?専門家(弁護士)に相談すべきケース
基本的な契約書はご自身で作成可能ですが、以下のような場合は、無理せず弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
- 取引金額が非常に大きい
- 契約内容が複雑で、権利関係が多岐にわたる(例:システム開発、M&Aなど)
- 自社にとって前例のない、新しいタイプの取引である
- 相手方から提示された契約書に、少しでも不利だと感じる条項がある
- 海外企業との取引である
専門家への相談費用はかかりますが、将来の大きな紛争リスクを未然に防ぐための投資と考えることができます。
【Q&A】契約書作成に関するよくある質問
Q. 収入印紙は誰が負担するのですか?
法律上の定めはなく、当事者間の取り決めによります。契約書を2通作成する場合、双方が各自で保管する契約書の印紙代をそれぞれ負担するのが一般的です。
Q. 契約書は何部作成すればよいですか?
当事者の数だけ作成し、各自が1通ずつ原本を保管するのが基本です。2者間契約であれば、2部作成します。
Q. 押印は実印である必要がありますか?
法律上、必須ではありません。認印でも契約は有効に成立します。しかし、高額な取引や重要な契約では、信頼性を高めるために実印と印鑑証明書を求めることが一般的です。
まとめ
今回は、契約書作成の基本手順から必須項目、注意点、そして最新の電子契約に至るまで、網羅的に解説しました。契約書は、相手方との合意内容を明確にし、あなたのビジネスを不測の事態から守るための重要な文書です。
この記事で解説したポイントを押さえれば、初めての方でも、自信を持って契約業務を進めることができるはずです。
最後に、次に取り組むべきアクションは、まず、これから結ぶ契約の内容(目的、合意事項)をご自身の言葉で書き出してみることです。次に、信頼できる雛形を探し、この記事のチェックリストを参考にしながら、その内容を自社の状況に合わせて修正していきましょう。もし少しでも不安を感じる点があれば、専門家への相談を検討することも重要な選択肢です。
この記事が、あなたのビジネスの一助となれば幸いです。