ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?始め方からツール選定まで徹底解説!
BtoB企業の営業・マーケティング担当者の間で、「ABM(アカウントベースドマーケティング)」への注目が高まっています。
ABMは、従来の不特定多数を対象としたマーケティングとは異なり、特定の価値ある企業(アカウント)にターゲットを絞り込み、部門横断で最適なアプローチを行う戦略です。
この記事では、ABMの基本的な概念から、メリット・デメリット、具体的な始め方、成功のポイント、役立つツールまで、網羅的に解説します。
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?
ABM(Account Based Marketing)とは、自社にとって価値の高い特定の企業(ターゲットアカウント)を定義し、そのアカウントに対してマーケティング部門と営業部門が連携して、個別最適化されたアプローチを行うマーケティング戦略です。
従来のリード(見込み客)獲得を主眼としたデマンドジェネレーション型のマーケティングが「広く網をかけて魚を獲る」手法だとすれば、ABMは「狙った大物を一本釣りする」ようなイメージです。
なぜ、ABMが注目されているのか?
BtoB購買プロセスの複雑化
意思決定に関わる人数が増え、情報収集もオンライン化が進み、アプローチが難しくなっている。
マーケティングテクノロジーの進化
MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)、ABM専用ツールなどの進化により、ターゲットアカウントの特定や個別アプローチが効率的に行えるようになった。
費用対効果(ROI)への意識向上
限られたリソースで最大の成果を出すため、より効率的なマーケティング・営業活動が求められている。
ABM導入のメリット
ABMを導入することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。
高いROI(投資対効果)
ターゲットを絞り込むことで、無駄なマーケティング・営業コストを削減し、リソースを最も価値の高いアカウントに集中できます。結果として、投資対効果が大幅に向上します。
営業とマーケティングの連携強化
共通のターゲットアカウントに対して、両部門が目標と戦略を共有し、一貫したアプローチを行うため、部門間の連携が深まります。これにより、サイロ化を防ぎ、組織全体の効率が向上します。
顧客エンゲージメントの向上
ターゲットアカウントのニーズや課題に合わせてパーソナライズされたメッセージやコンテンツを提供するため、顧客の関心を引きつけやすく、より深い関係性を構築できます。
効率的なリソース配分
優先度の高いアカウントにリソースを集中投下できるため、営業・マーケティング活動全体の生産性が向上します。
LTV(顧客生涯価値)の最大化
ターゲットアカウントとの長期的な関係構築を目指すため、アップセルやクロスセルの機会が増え、LTVの向上が期待できます。
質の高い商談の創出
最初から自社にとって価値の高いアカウントを狙うため、受注確度の高い商談を効率的に生み出すことができます。
ABMのデメリットと注意点
多くのメリットがある一方、ABM導入には以下のような注意点も存在します。
導入・運用コスト
ABMの実践には、戦略策定、ターゲットリスト作成、コンテンツ制作、ツール導入などに初期投資や継続的なコストがかかります。
ターゲット選定の難しさ
自社にとって本当に価値のあるアカウントを正確に見極めるには、データ分析や市場理解が不可欠であり、難易度が高い場合があります。
長期的な取り組みが必要
ABMはすぐに成果が出るものではなく、ターゲットアカウントとの関係構築には時間がかかるため、中長期的な視点での取り組みが求められます。
部門間の連携が不可欠
営業とマーケティングの連携がうまくいかなければ、ABMは機能しません。強固な連携体制の構築が成功の鍵となります。
スケーラビリティの課題
アカウントごとに個別のアプローチを行うため、対象アカウント数が多くなると、スケールさせるのが難しい場合があります。
ABMの具体的な進め方【6ステップ】
ABMを成功させるためには、計画的かつ段階的に進めることが重要です。ここでは、一般的なABMの実践ステップをご紹介します。
ステップ1:ターゲットアカウントの選定
ICP(Ideal Customer Profile:理想的な顧客像)の定義
自社にとって最も価値の高い顧客はどのような企業か、売上規模、業種、地域、抱えている課題などの観点から定義します。
ターゲットアカウントリストの作成
ICPに基づき、既存顧客データ、市場データ、企業データベースなどを活用して、具体的なターゲットアカウントのリストを作成します。優先順位付けも行いましょう。
ステップ2:ターゲットアカウントのリサーチと理解
アカウント情報の収集
選定したターゲットアカウントの組織構造、キーパーソン、事業戦略、業界動向、抱えている課題やニーズなどを徹底的に調査します。ウェブサイト、ニュースリリース、SNS、業界レポート、営業担当者のヒアリングなど、あらゆる情報源を活用します。
キーパーソン(意思決定者・影響者)の特定
購買プロセスに関与する主要な人物を特定し、それぞれの役割や関心事を把握します。
ステップ3:個別化されたコンテンツ・メッセージの作成
アカウント固有の価値提案
リサーチ結果に基づき、ターゲットアカウントの特定の課題やニーズに響くような、個別最適化されたメッセージや価値提案を策定します。
コンテンツのカスタマイズ
各アカウントやキーパーソンに合わせて、ブログ記事、ホワイトペーパー、導入事例、ウェビナー、デモなどのコンテンツをカスタマイズ、または新規作成します。
ステップ4:適切なチャネルでのアプローチ(マルチチャネル戦略)
チャネル選定
ターゲットアカウントやキーパーソンが利用している可能性の高いチャネル(メール、電話、SNS、Web広告、イベント、ダイレクトメールなど)を選定します。
統合的なアプローチ
複数のチャネルを組み合わせ、一貫性のあるメッセージを最適なタイミングで届けます。営業とマーケティングが連携し、役割分担しながらアプローチを実行します。
ステップ5:営業とマーケティングの連携による実行
役割分担と情報共有
マーケティングはアカウントへの認知度向上や関心喚起、営業は具体的な商談設定やクロージングといった役割を担いますが、常にターゲットアカウントに関する情報を共有し、連携して動くことが重要です。
定例会議の実施
定期的に進捗状況、課題、次のアクションなどを共有する場を設けます。
ステップ6:効果測定と改善
KPIの設定
ABMの目標達成度を測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。(例:ターゲットアカウントのエンゲージメント率、ウェブサイト訪問数、商談化率、受注率、案件単価、キャンペーンROIなど)
データ分析とレポーティング
設定したKPIを定期的に測定・分析し、レポートを作成します。
戦略の改善
分析結果に基づき、ターゲットアカウントリストの見直し、アプローチ手法の改善、コンテンツの最適化などを継続的に行い、ABM戦略全体の効果を高めていきます。
ABM成功のポイント
ABMを成功に導くためには、以下の要素が重要になります。
経営層の理解とコミットメント
ABMは部門横断的な取り組みであり、中長期的な視点が必要なため、経営層の強いリーダーシップと支援が不可欠です。
営業とマーケティングの強固な連携体制
目標、ターゲット、戦略、KPIを共有し、日常的にコミュニケーションを取り、協力し合う文化を醸成することが最も重要です。SLA(Service Level Agreement)を定義するのも有効です。
適切なテクノロジーの活用
MA、SFA、CRM、ABM専用ツールなどを効果的に活用し、データに基づいたターゲット選定、パーソナライズ、効果測定を効率化します。
質の高いデータ
正確で最新の顧客データ、アカウントデータがABMの基盤となります。データ管理体制の整備も重要です。
継続的な改善(PDCA)
ABMは一度導入して終わりではありません。効果測定の結果に基づき、常に戦略や施策を見直し、改善していく姿勢が求められます。
ABMに役立つツール
ABM戦略を効率的かつ効果的に実行するためには、テクノロジーの活用が欠かせません。以下に代表的なツールカテゴリを挙げます。
MA(マーケティングオートメーション)ツール
HubSpot, Marketo Engage, Salesforce Pardot など
リードナーチャリング、メールマーケティング、スコアリング、Web行動追跡などの機能で、アカウントへのアプローチを自動化・効率化します。
SFA(営業支援システム)/ CRM(顧客関係管理)ツール
Salesforce Sales Cloud, HubSpot CRM, Zoho CRM など
顧客情報、商談情報、活動履歴などを一元管理し、営業活動の可視化と効率化、マーケティングとの情報連携を支援します。
ABM専用ツール
Demandbase, 6sense, Terminus, FORCAS(日本国内) など
ターゲットアカウントの特定、インテントデータ(興味関心データ)の分析、アカウントベースの広告配信、エンゲージメント測定など、ABM特有の機能を提供します。
企業情報データベース
帝国データバンク, 東京商工リサーチ, SPEEDA、SalesNowなど
ターゲットアカウントリスト作成やリサーチに必要な企業情報を提供します。
BI(ビジネスインテリジェンス)ツール
Tableau, Microsoft Power BI, Google Data Studio など
各種データを統合・分析し、ABMの効果測定や意思決定に役立つインサイトを提供します。
これらのツールを自社の戦略や規模に合わせて組み合わせ、活用することが重要です。
まとめ
ABMは、単なるマーケティング手法の一つではなく、「顧客中心」の考えに基づき、営業とマーケティングが一体となって、最も価値の高い顧客との長期的な関係構築を目指す経営戦略です。
導入には時間と労力がかかりますが、適切に実行すれば、ROIの向上、部門間連携の強化、そして最終的には事業成長に大きく貢献する可能性を秘めています。
まずはスモールスタートでも構いません。自社にとっての重要顧客を見極め、部門間で連携し、パーソナライズされたアプローチを試してみてはいかがでしょうか。ABMは、これからのBtoB企業の営業・マーケティング活動に不可欠な戦略となるでしょう。