専門知識は不要!Salesforceと外部ツールを繋ぐ「API連携」超入門ガイド
目次
Salesforceは、MAツールや会計ソフト、基幹システムといった外部システムと連携させることで、その活用範囲が大きく広がります。このシステム連携を実現する上で不可欠な技術が「API」です。
本記事では、この「Salesforce API連携」をテーマに、ビジネスにもたらすメリット、主要APIの種類と選び方、連携プロジェクトの進め方、そして具体的な成功事例までを網羅的に解説します。
情報システム部門の方はもちろん、専門知識に自信がない事業部門の方にもご理解いただけるよう、分かりやすさを重視しました。この記事が、貴社のデータ活用を次のステージへ進めるための一助となれば幸いです。
SalesforceのAPI連携とは?
SalesforceのAPI連携とは、異なるシステム同士をつなぐ「API」という技術を使い、Salesforceと社内の他システム(MAツール、会計ソフト、基幹システムなど)を連携させることです。
この連携により、これまで手作業で行っていたシステム間のデータ入力や転記が自動化され、業務効率が大幅に向上します。また、各部署に分散していた顧客情報などを一元管理できるため、データのサイロ化を防ぎ、より高度で正確なデータ分析や顧客対応が可能になります。
専門知識がなくても、iPaaS(連携ツール)などを使えば比較的容易に実現できる場合もあります。
API連携がもたらす4つの主要メリット
API(Application Programming Interface)とは、異なるソフトウェアやシステム同士が情報をやり取りするための「つなぎ役」です。SalesforceのAPI連携とは、この仕組みを利用して、Salesforceと他のシステム間でデータを自動的に交換できるようにすることです。これにより、主に以下の4つの大きなビジネスメリットが生まれます。
1. データの一元管理とサイロ化の解消
多くの企業では、部署ごとに異なるシステムを利用しているため、顧客データなどがバラバラに管理されがちです(データのサイロ化)。API連携により、営業がSalesforceに入力した顧客情報が、自動的にマーケティング部門のMAツールや経理部門の会計ソフトにも反映されます。これにより、常に最新かつ正確な情報が全社で共有され、データの一元管理が実現します。
2. 業務プロセスの自動化と効率化
これまで手作業で行っていたデータ入力や転記作業を自動化できます。例えば、Webサイトの問い合わせ内容を自動でSalesforceのリード情報として登録したり、受注情報を会計システムに連携したりすることが可能です。これにより、担当者は単純作業から解放され、より付加価値の高い業務に集中できます。
3. 顧客体験(CX)の向上
社内のデータが連携されることで、顧客一人ひとりに対して、より一貫性のあるきめ細やかな対応が可能になります。例えば、カスタマーサポートへの問い合わせ履歴が営業担当者の画面ですぐに確認できれば、顧客は同じ説明を繰り返す必要がありません。全部門が連携して顧客を深く理解することで、満足度の高い顧客体験を提供できます。
4. データに基づいた意思決定の実現
Salesforceの営業データと、他のシステム(BIツール、広告管理ツールなど)のデータを組み合わせることで、より高度で多角的なデータ分析が可能になります。どの施策から得た顧客が最も受注に繋がりやすいかなどを可視化し、勘や経験に頼らない、データに基づいた意思決定を支援します。
API連携とAppExchangeの違い
Salesforceの連携・機能拡張を考えるとき、必ず登場するのが「AppExchange」と「API連携」です。この2つは混同されがちですが、目的や特性は大きく異なります。
例えるなら、「既製品のスーツ」と「オーダーメイドのスーツ」の違いをイメージすると分かりやすいでしょう。
AppExchange
Salesforce公式のアプリストアから、必要な機能を持つアプリをインストールする方法です。サイズ(仕様)が合えば、手軽にすぐ利用できる点が魅力です。
API連携
自社の業務に合わせて、システム同士をプログラムでつなぎ、独自の連携を開発する方法です。時間はかかりますが、どんなに複雑な要望にも応えられます。
両者の違いを以下の表にまとめました。
【比較表】API連携とAppExchange
| 比較項目 | AppExchange | API連携 |
|---|---|---|
| 概要 | Salesforceの公式アプリストアから提供されるアプリケーション。 | 異なるシステム間をプログラムでつなぎ、データをやり取りさせること。 |
| 例えるなら | 既製品のスーツ | オーダーメイドのスーツ |
| メリット | ・導入が簡単・スピーディ ・低コストで始められる ・専門知識が不要な場合が多い | ・連携の自由度が非常に高い ・自社の特殊な業務要件に対応可能 ・既存システムを活かせる |
| デメリット | ・カスタマイズ性が低い ・アプリの仕様に業務を合わせる必要があることも | ・専門的な開発知識やスキルが必要 ・開発に時間とコストがかかる ・完成後の保守・運用が必要 |
| どんな時に最適? | ・名刺管理、帳票出力など、一般的な課題を解決したい場合 ・すぐに使いたい機能がある場合 | ・AppExchangeに最適なアプリがない場合 ・自社の基幹システムなど、特殊なシステムと連携したい場合 ・複雑なデータ連携を行いたい場合 |
【使い分けのポイント】
まずはAppExchangeで自社の課題を解決できるアプリがないかを探し、適切なものが見つからない場合に、API連携によるカスタム開発を検討するという流れが最も効率的です。
Salesforceの主要API
Salesforceは、連携の目的やデータ量に応じて、様々な種類のAPIを提供しています。ここでは、特に利用頻度の高い主要なAPIについて、その特徴と最適な利用シーンを解説します。
REST API:Webサービスの標準的な選択肢
Webサービス連携の分野で現在最も広く使われているAPIです。シンプルで分かりやすい構造が特徴で、モバイルアプリやWebアプリケーションとの連携に最適です。
- 特徴: 軽量でパフォーマンスが良く、Web開発者にとって馴染み深いJSON形式が主流です。基本的なレコードの作成・読み取り・更新・削除(CRUD)に適しています。
- 利用シーン: WebサイトのフォームからSalesforceへのリード登録、モバイルアプリからの顧客情報の参照・更新など。
SOAP API:厳密なデータ連携が必要な場合に
REST API以前から存在する、歴史と実績のあるAPIです。厳密なルールに基づいて通信を行うため、信頼性の高い連携が求められる場合に適しています。
- 特徴: WSDLという仕様定義言語を用いることで、信頼性の高いデータ連携を実現します。
トランザクション管理など、複雑な処理にも対応可能です。 - 利用シーン: 企業の基幹システム(ERP)や会計システムなど、ミッションクリティカルなシステムとの連携。
Bulk API 2.0:大量データの一括処理に最適
その名の通り、数万件から数百万件といった大量のデータを一括で処理することに特化したAPIです。バックグラウンドで処理を行うため、APIの利用制限(後述)を効率的に使いながら、大量のデータを安定して扱えます。
- 特徴: 非同期処理で大量データを扱え、APIコール数を大幅に節約できます。
- 利用シーン: システム導入時の初期データ移行、外部データベースとの大量データの夜間バッチ同期など。
Streaming API:リアルタイムなイベント通知
Salesforce上のデータの変更をリアルタイムで検知し、外部システムに通知するためのAPIです。Salesforce側から「データが変わりましたよ!」とプッシュ通知する点が特徴です。
- 特徴: プッシュテクノロジーにより、不要なAPIコールを削減しつつリアルタイムなイベント通知を実現します。
- 利用シーン: 重要な商談のフェーズが変更された際のSlack通知、サポートケースが登録された際のダッシュボードのリアルタイム更新など。
【早見表】最適なAPIの選び方
どのAPIを選べば良いか迷ったときは、以下の表を参考に要件を整理してみてください。
| 観点 | REST API | SOAP API | Bulk API 2.0 | Streaming API |
|---|---|---|---|---|
| データ量 | 小〜中規模 | 小〜大規模 | 大規模(数万件以上) | イベント通知 |
| 処理方式 | 同期 | 同期 | 非同期 | プッシュ通知 |
| リアルタイム性 | 高い | 高い | 低い(バッチ向き) | 非常に高い |
| 主な用途 | Web/モバイル連携 | 基幹システム連携 | データ移行/バッチ処理 | リアルタイム通知 |
| 開発の容易さ | 易しい | やや複雑 | 易しい | やや複雑 |
API連携プロジェクトの基本的な進め方
実際にAPI連携プロジェクトはどのように進めればよいのでしょうか。基本的な3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:目的を定め、連携の仕様を決める
技術的な話に入る前に、最も重要なのがこのステップです。「何のために」API連携を行うのかというビジネスゴールを具体的にし、それを達成するために「何を」「どう」連携させるかを定義します。
▼連携仕様の定義項目例
| 項目 | 定義内容の例 |
|---|---|
| 連携対象 | Salesforceの「商談」オブジェクトと、会計システムの「請求」データ |
| データ項目(マッピング) | Salesforceの「取引先名」を、会計システムの「得意先名」に対応させる |
| 連携方向 | 片方向(Salesforce → 会計システム) |
| 連携タイミング | 1時間に1回 |
| 連携のきっかけ | Salesforceの商談フェーズが「受注」に変更されたら |
この仕様決定は、情報システム担当者と事業部門の担当者が密にコミュニケーションを取りながら進めることが成功の鍵となります。
ステップ2:連携方法を選ぶ(自社開発かツールか)
仕様が決まったら、それをどう実現するかを選択します。主な選択肢は「自社での開発」と「iPaaS/連携ツールの利用」の2つです。
自社開発は、Apex(Salesforce独自の言語)やJavaなどを使って連携プログラムをゼロから開発する方法です。自由度が非常に高い反面、高度な専門知識とスキルが必要で、開発に時間とコストがかかります。
iPaaS/連携ツール(Integration Platform as a Service)は、様々なシステム間の連携を簡単に行うためのクラウドサービスです。プログラミング知識がなくても画面操作で連携を構築できることが多く、開発期間を大幅に短縮できますが、月額の利用料が発生し、ツールの機能範囲を超える複雑な連携は難しい場合があります。
連携要件が比較的シンプルで、一般的なSaaS同士の連携であれば、まずはiPaaSの利用を検討するのがおすすめです。
ステップ3:開発・実装とテストを行う
連携方法が決まったら、実際の開発・実装フェーズに入ります。仕様に基づいた技術的設計を行い、プログラミングやiPaaSの設定を進めます。開発後は、システムが個別に、そして全体として正しく動作するかを検証するテストが不可欠です。特に、想定外のデータが入った場合やエラー発生時の挙動を念入りにテストし、問題がなければ本番環境へリリースします。
API連携を成功に導く3つの注意点
API連携は非常に有効ですが、計画なしに進めるとトラブルの原因にもなり得ます。連携を成功させるために押さえておくべき3つの注意点を解説します。
注意点1:APIコール数(リクエスト数)の上限
Salesforceでは、システムの安定稼働のため、24時間あたりにAPIを呼び出せる回数(APIコール数)に上限が設けられています。この上限は契約内容によって異なります。連携の設計が悪いと、上限に達して連携が停止し、業務に深刻な影響を及ぼす可能性があります。対策として、自社の上限を把握し、大量データを扱う際はBulk APIを利用するなど、APIコール数を節約する効率的な設計を心がけることが重要です。
注意点2:万全なセキュリティ対策
APIを介して企業の重要なデータがやり取りされるため、セキュリティ対策は不可欠です。
- 認証(Authentication): 「誰が」アクセスしているのかを正しく確認する仕組みです。一般的には「OAuth 2.0」というセキュアなプロトコルが利用されます。
- 認可(Authorization): 認証されたユーザーに対し、「何に」「どこまで」アクセスを許可するかを制御する仕組みです。連携に必要な最低限の権限のみを付与する「最小権限の原則」を徹底します。
これらに加え、通信の暗号化(HTTPS)やIPアドレスによるアクセス制限など、多層的な防御策を講じることが推奨されます。
注意点3:データ品質の担保とエラー処理
「連携は動いているが、データが正しくない」という事態を防ぐため、データ品質の担保と、エラー発生時に迅速に対応できる仕組みを事前に設計しておくことが重要です。連携の前提としてマスタデータを整備し、エラー発生時には管理者に通知したり、処理を再実行したりする仕組み(エラーハンドリング)を構築しておきましょう。
【Q&A】SalesforceのAPI連携に関するよくある質問
Q. プログラミング知識がなくてもAPI連携はできますか?
A. できます。
iPaaS(Integration Platform as a Service)と呼ばれる連携ツールを利用すれば、プログラミングを行わずに、画面操作だけで主要なクラウドサービス間の連携を構築できます。ただし、複雑な要件の場合は専門家の協力が必要になることがあります。
Q. API連携にかかる費用はどれくらいですか?
A. 要件や実現方法によって大きく異なります。
iPaaSツールを利用する場合は、ツールの月額利用料(数万円〜)が主な費用です。自社で開発する場合は、エンジニアの人件費(工数)が費用となり、簡単なものでも数十万円から、複雑なものでは数百万円以上かかることもあります。
Q. 連携時のトラブルはどこに相談すれば良いですか?
A. 問題の切り分けによって相談先が変わります。
iPaaSツールを利用しているなら提供ベンダーへ、自社開発したなら開発担当者へ相談するのが基本です。その上で、Salesforce側の問題が疑われるならSalesforceのサポートへ、連携先システムの問題ならその提供元へ問い合わせます。
まとめ
本記事では、SalesforceのAPI連携について、基本的な概念からメリット、APIの種類、実現ステップ、成功事例、注意点までを解説しました。
API連携は、単なるシステム間のデータ連携にとどまりません。それは、社内に点在するデータを統合し、業務プロセスを自動化し、顧客への理解を深めることで、Salesforceというプラットフォームの価値をさらに高めるための有効な手段です。
最も重要なのは、「API連携によって、自社のどのようなビジネス課題を解決したいのか」を明確にすることです。この記事で得た知識が、皆様の会社にとって最適なデータ活用の第一歩を踏み出す一助となれば幸いです。