ホワイトスペースとは?見つけ方から攻略法まで徹底解説!
目次
「担当している既存顧客からの売上が、なかなか伸びない…」
「新規開拓はますます難しくなる一方で、成長戦略が描けない…」
「アップセルやクロスセルを狙ってはいるが、いつも話がうまく進まない…」
BtoB営業に携わる多くの営業担当者やマネージャーが、このような「成長の踊り場」とも言える課題に直面しています。しかし、その突破口は、まだ見ぬ遠い場所ではなく、あなたの目の前、つまり既存顧客の中に眠っているのかもしれません。その鍵を握るのが、「ホワイトスペース」という概念です。
この記事では、BtoB営業における「ホワイトスペース」について、その基本的な概念から、具体的な発見方法、そして組織的に攻略するための戦略までを、網羅的かつ体系的に解説します。
なぜホワイトスペースが重要なのか?
まず、ホワイトスペースという言葉の定義と、現代の営業戦略におけるその重要性を確認しましょう。
ホワイトスペースの定義
営業におけるホワイトスペースとは、既に取引のある既存顧客の中に存在する、まだ自社の商品やサービスを提供できていない「未開拓の領域(事業部、製品カテゴリー、エリアなど)」を指します。顧客という地図の中で、まだ色が塗られていない「空白地帯」をイメージすると分かりやすいでしょう。
例えば、ある企業のA事業部に製品Xを導入してもらっている場合、
- A事業部に、まだ導入されていない製品YやZ
- 製品Xを、まだ導入していないB事業部やC事業部、海外支社
これら全てが、あなたにとっての「ホワイトスペース」です。
アップセル・クロスセルとの違いと関係性
ホワイトスペースと混同されやすい言葉に「アップセル」「クロスセル」があります。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| アップセル | 既存顧客に、現在利用している商品よりも上位の高価格帯商品を提案すること。(例:プランA→プランB) |
| クロスセル | 既存顧客に、現在利用している商品に関連する別の商品を提案すること。(例:PC本体+マウス) |
これらはホワイトスペースを攻略するための具体的な「戦術」です。一方、ホワイトスペースは、「どこに(Which Department/Product Category)」「何を(What Product/Service)」売る可能性があるかという「機会そのもの」を指す、より大きな戦略的概念です。ホワイトスペースを発見して初めて、具体的なアップセルやクロスセルの提案が可能になるのです。
新規開拓が困難な時代の、最も確実な成長戦略
市場が成熟し、新規顧客の獲得コストが上昇し続ける現代において、全く接点のない新規顧客にアプローチするよりも、既に信頼関係のある既存顧客の未開拓領域にアプローチする方が、はるかに効率的で成功確率が高いのは自明です。ホワイトスペースの攻略は、既存顧客という最大の資産を最大限に活用する、最も確実性の高い成長戦略と言えます。
ホワイトスペース攻略がもたらす3メリット
ホワイトスペースの攻略は、単なる売上増加以上の、計り知れないメリットを企業にもたらします。
メリット1:LTV(顧客生涯価値)が飛躍的に向上する
顧客内の取引範囲が広がることで、一社あたりの取引額が増加し、顧客が自社にもたらす生涯利益(LTV)は飛躍的に向上します。これにより、企業の収益基盤はより安定し、強固なものになります。
メリット2:競合他社の介入を防ぎ、顧客をロックインする
顧客のビジネスに深く、そして広く入り込むことで、競合他社が介入する隙をなくします。複数の製品やサービスが連携して価値を提供することで、顧客はスイッチング(乗り換え)が困難になり、自社との関係性が強化されます(顧客のロックイン)。
メリット3:顧客との関係が「取引先」から「戦略的パートナー」へ深化する
顧客の一部署の問題解決だけでなく、会社全体の課題解決に貢献することで、自社の立ち位置は単なる「取引先(ベンダー)」から、顧客の成長に欠かせない「戦略的パートナー」へと進化します。これにより、さらに深いレベルでの情報共有や、新たなビジネス機会の創出に繋がります。
顧客に眠る「ホワイトスペース」の見つけ方
では、どうすれば顧客の中に眠る宝の地図、「ホワイトスペース」を見つけ出すことができるのでしょうか。ここでは、体系的な5つのステップを紹介します。
STEP1:顧客情報を徹底的に可視化・分析する
まず、社内に散在している顧客情報を一元化することから始めます。SFA/CRMに蓄積された過去の取引履歴、商談記録、問い合わせ内容などを徹底的に分析し、「どの顧客が」「何を」「いつ」購入したのかを正確に把握します。これが全ての分析の土台となります。
STEP2:「顧客の顧客」や業界動向から、顧客のビジネス課題を予測する
視点を上げ、あなたの顧客が、その先の顧客(顧客の顧客)や市場から何を求められているかを考えます。業界ニュースや競合の動向、顧客の中期経営計画などをリサーチし、「この顧客は、今〇〇という課題に直面しているはずだ。その課題解決には、自社の△△というサービスが貢献できるのではないか?」という仮説を立てます。
STEP3:キーパーソンとの対話で「BANT-CH情報」を収集する
仮説を持って、顧客のキーパーソンとの対話に臨みます。単なる雑談ではなく、「BANT-CH条件」を意識した戦略的なヒアリングを行い、顧客の解像度を高めます。
- Budget(予算)
- Authority(決裁権)
- Needs(必要性)
- Timeframe(導入時期)
- Competitors(競合)
- Human Resources(人的資源)
STEP4:製品・サービスの導入状況をマッピングする(プロダクトマップ)
横軸に顧客の事業部や部署、縦軸に自社の製品・サービスラインナップを並べたマトリクス表(プロダクトマップ)を作成します。そして、どの部署にどの製品が導入されているかを塗りつ潰していくことで、「この部署には、まだこの製品が入っていない」というホワイトスペースが一目瞭然になります。
STEP5:組織図を基に関係性を可視化する(リレーションマップ)
顧客の組織図を入手し、自社との関係性を可視化します。誰がキーパーソンで、誰が決裁権を持っているのか。まだ接点のない部署や、攻略すべきキーパーソンは誰か。人間関係を地図のように描くことで、アプローチすべきターゲットが明確になります。
発見したホワイトスペースを「売上」に変える攻略アプローチ
ホワイトスペースは、発見するだけでは絵に描いた餅です。それを具体的な売上に変えるためのアプローチを紹介します。
アプローチ1:アカウントプランを策定し、攻略の全体像を描く
「アカウントプラン」とは、特定の重要顧客に対して、中長期的な売上目標を達成するための詳細な行動計画書です。発見したホワイトスペースに対し、「誰に」「何を」「いつまでに」「どのように」アプローチしていくのか、その全体像と具体的なアクションプランを描き、関係者と共有します。
アプローチ2:社内の他部署や上司を巻き込み、組織戦で挑む
ホワイトスペースの攻略は、一人の営業担当者だけでは困難な場合が多くあります。製品の技術的な知見を持つエンジニア、経営層へのアプローチを支援してくれる上司、関連部署との繋がりを持つ同僚など、社内のリソースを最大限に活用し、「組織戦」で挑むことが成功の鍵です。
アプローチ3:小さな成功事例を創り、横展開する
まずは、最も攻略しやすそうなホワイトスペース(特定の部署へのクロスセルなど)に集中し、確実に成功事例を作ります。その成功事例を武器に、「A事業部様では、この製品を導入してこれだけの成果が出ています。B事業部様でも同様の課題をお持ちではないでしょうか?」と、他の部署へ横展開していくことで、効率的に攻略を進めることができます。
ホワイトスペース攻略を加速させるツール活用術
SFA/CRM
顧客情報、商談履歴、担当者情報など、ホワイトスペース分析に必要なあらゆる情報を一元管理する「ハブ」として機能します。SFA/CRMなくして、体系的なホワイトスペース攻略はあり得ません。
名刺管理ツール
交換した名刺をデータ化し、社内の誰が顧客企業の誰と繋がっているかを可視化します。まだ接点のない部署のキーパーソンに対し、同僚を介してアプローチするなど、戦略的な人脈活用が可能になります。
企業情報データベース
顧客企業に関する最新のプレスリリースや人事異動、財務状況などを提供するデータベースです。これらの情報を基に、新たなビジネスチャンスの兆候をいち早く掴むことができます。
【要注意】ホワイトスペース攻略で陥りがちなミス
1:目先の案件に追われ、中長期的な深耕活動を後回しにする
ホワイトスペース攻略は、すぐに成果が出るものではありません。目先の新規案件や既存契約の更新に追われ、こうした中長期的な視点での活動を後回しにしてしまうと、企業の成長はいつか必ず頭打ちになります。
2:担当部署へのヒアリングだけで、顧客の全体像を理解したつもりになる
いつもやり取りしている担当部署の情報だけで、その顧客の全てを理解した気になってしまうのは危険です。他の事業部の課題や、会社全体の中期経営計画など、より視野の広い情報を収集しなければ、大きなビジネスチャンスを見逃してしまいます。
3:発見した機会に対し、単独でアプローチしようとする
大きなホワイトスペースは、多くの場合、複数の部署や決裁者が関わる複雑な案件です。一人の担当者の力だけで攻略しようとせず、必ず上司や関連部署を巻き込み、組織として最適なアプローチ戦略を練ることが重要です。
ホワイトスペースに関するQ&A
Q. 攻略しやすいホワイトスペースの特徴はありますか?
A. ①自社の既存製品とのシナジーが高い領域(例:データ分析ツール導入済みの部署への、BIツール提案)、②既に良好な関係を築けているキーパーソンからの紹介が得られる部署、③顧客の経営計画で、重点領域として挙げられている事業部などが、比較的攻略しやすいと言えます。
Q. 顧客にヒアリングする際、どんな質問をすれば機会を発見できますか?
A. 「何かお困りごとはありませんか?」という漠然とした質問では、答えは返ってきません。「〇〇部長が、今期の事業計画で最も重要視されている指標(KPI)は何ですか?」「その指標を達成する上で、現在一番のボトルネックとなっている業務は何でしょうか?」といった、相手のミッションや課題に焦点を当てた、具体的で鋭い質問が有効です。
Q. ホワイトスペース攻略は、どの部署が主導すべきですか?
A. 基本的には、顧客と直接的な関係を持つ営業部門(アカウントマネージャー)が主導すべきです。しかし、その活動を支えるために、マーケティング部門による情報提供や、経営層によるトップアプローチなど、全社的なサポート体制が不可欠です。
まとめ
本記事では、BtoB営業におけるホワイトスペースの重要性から、その具体的な発見・攻略手法までを体系的に解説しました。
ホワイトスペースは、ただ闇雲に顧客リストを眺めていても、見つかるものではありません。それは、顧客のビジネスを深く、広く、徹底的に理解しようと努める中で、自社が貢献できる新たな機会として自ずと「見出される」ものです。
あなたの目の前にいる既存顧客は、未開拓のビジネスチャンスに満ちた、まさに宝の山です。この記事を参考に、その宝の地図を広げ、あなたの会社の次なる成長の冒険へと旅立ってみてはいかがでしょうか。