Salesforceの価値はカスタマイズで9割決まる!コストをかけずに業務改善するカスタマイズ術
目次
高機能なCRM/SFAツールとして多くの企業に導入されているSalesforce。しかし、導入しただけでその真価を最大限に引き出せている企業は、実はそれほど多くありません。
せっかく導入したSalesforceなのに、「現場に合わず使いにくい」「Excelの方が楽」といった声が聞こえていませんか。その原因は、Salesforceを“初期設定のまま”使っていることかもしれません。自社に合わせて最適化する「カスタマイズ」を行わなければ、高機能ツールも「宝の持ち腐れ」です。
本記事では、そのSalesforceのカスタマイズを徹底解説します。非エンジニアでも始められる簡単な設定から、開発が必要なケースの見極め方まで、わかりやすく解説します。
Salesforceカスタマイズの基本となる3つの方法
Salesforceのカスタマイズは、大きく分けて3つの方法があります。それぞれに特徴があり、実現したいことや予算、期間に応じて最適な手法を選択することが重要です。
1. 標準機能の活用
プログラミングコードを書かずに、Salesforceの管理画面からクリック操作のみで設定を行うカスタマイズです。これを「宣言的開発(Declarative Development)」と呼びます。多くの一般的な業務改善は、この標準機能のカスタマイズで実現可能です。まずはこの方法でどこまで対応できるかを検討するのが、カスタマイズの第一歩です。
2. AppExchangeによる機能拡張
「AppExchange」は、Salesforceが公式に提供するビジネスアプリのマーケットプレイスです。iPhoneのApp Storeのように、様々なベンダーが開発したSalesforce拡張機能をインストールして、自社の環境に機能を追加できます。名刺管理ツール、帳票出力ツール、マーケティングオートメーションツールなど、多種多様なアプリが公開されており、開発するよりも早く安価に特定の機能を追加したい場合に有効です。
3. 独自開発(プログラマティック開発)
標準機能やAppExchangeでは対応できない、自社特有の複雑な要件を実現するために行われるのが、プログラミングによる独自開発です。「プログラマティック開発(Programmatic Development)」とも呼ばれ、主にApexやVisualforceといった技術が用いられます。自由度が非常に高い反面、開発には専門的な知識とスキルが必要であり、コストや時間もかかります。
| カスタマイズ方法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 標準機能の活用 | コーディング不要。クリック操作で設定を変更するカスタマイズ。 | ・低コスト・短期間で実現可能 ・非エンジニアでも対応可能 ・バージョンアップに強い | ・機能的な制約がある ・複雑な要件には対応不可 |
| AppExchange | Salesforce専用のアプリストア。必要な機能を持つアプリを導入。 | ・開発より低コスト・短期間 ・豊富なアプリから選択可能 ・専門的な機能を追加できる | ・月額/年額の利用料が発生 ・自社要件に100%合致するとは限らない |
| 独自開発 | ApexやVisualforceといった言語を用いて独自の機能を開発。 | ・要件に合わせた自由な設計が可能 ・複雑な業務ロジックに対応 ・独自のUI/UXを実現できる | ・高コスト・長期間になりがち ・専門的な知識・スキルが必要 ・保守・運用体制が必須 |
【非エンジニア向け】標準機能でできるカスタマイズ10選
「開発はハードルが高い…」と感じる方もご安心ください。ここでは、プログラミング不要で、すぐに試せる標準機能のカスタマイズを10個、具体的な活用シーンとともにご紹介します。情シス担当者の方は、まずここから始めてみましょう。
1. オブジェクト・項目のカスタマイズ
課題
「顧客情報に、自社で管理している『顧客ランク』や『担当エリア』といった項目がない」
解決策
Salesforceでは、管理したい情報の塊を「オブジェクト(例:顧客、商談)」、個々の情報を「項目(フィールド)」と呼びます。既存のオブジェクトに独自の項目を自由に追加できます。例えば、「取引先」オブジェクトに「担当エリア」という選択リスト項目を追加すれば、エリア別の分析が容易になります。
2. ページレイアウトの変更
課題
「営業担当には商談の情報だけを見せたいのに、関係ない項目が多くて入力しづらい」
解決策
ユーザーの役割やプロファイルごとに、レコード詳細ページの表示項目やその並び順を最適化できます。部署ごとに使いやすい画面を作成することで、入力漏れを防ぎ、業務効率を高めます。
3. 入力規則と数式項目の設定
課題
「電話番号の桁数がバラバラでデータが汚い」「割引後の金額を毎回手計算するのが面倒」
解決策
入力規則で「電話番号はハイフンなしの11桁でなければエラー」といった設定をすれば、データの品質を担保できます。また、数式項目で「金額 × (1 - 割引率)」のように設定すれば、割引後の金額が自動で表示され、計算ミスや手間を削減できます。
4. 選択リスト(ドロップダウン)の編集
課題
「商談の状況が『進行中』『失注』しかなく、自社の営業プロセスに合っていない」
解決策
「商談」オブジェクトの「フェーズ」のような選択リストの値を、自社の業務に合わせて自由に追加・編集・削除できます。「アポイント獲得」「提案中」「クロージング」など、実態に合ったフェーズを設定することで、営業プロセスの可視化と標準化が進みます。
5. プロセスビルダー・フローによる業務自動化
課題
「商談が成立したら、経理担当者や上長にメールで知らせる作業を毎回手動で行っている」
解決策
特定の条件をトリガーにして、一連の業務プロセスを自動化できます。Salesforceでは現在、「フロー(Salesforce Flow)」が主流の自動化ツールです。(※旧来の「プロセスビルダー」は今後廃止予定のため、新規作成はフローで行いましょう)
6. レポート&ダッシュボードの作成・共有
課題
「Excelで週次報告書を作るのに半日かかっている」「経営層がリアルタイムで営業状況を把握できない」
解決策
Salesforceに蓄積されたデータを元に、ドラッグ&ドロップの簡単操作で様々な切り口のレポートを作成できます。さらに、複数のレポートをグラフなどでまとめた「ダッシュボード」を作成すれば、重要なKPIを視覚的に一目で把握できます。
7. メールテンプレートの作成
課題
「お客様へのアポイント後のお礼メールなどを、毎回いちから作成している」
解決策
よく使うメールの文面を「メールテンプレート」として保存できます。取引先名や担当者名などを自動で差し込むこともできるため、メール作成の時間を大幅に短縮し、コミュニケーション品質の向上にも繋がります。
8. 承認プロセスの設定
課題
「見積もりの割引申請を紙やメールで行っており、誰が承認しているのか分からなくなることがある」
解決策
Salesforce上で、稟議や申請・承認のワークフローをシステム化できます。「割引率が10%を超える場合は部長の承認が必要」といったルールを定義し、申請から承認までのプロセスを自動化・記録します。
9. ホームページのカスタマイズ
課題
「Salesforceにログインしても、何を見ればいいのか分からない」
解決策
ユーザーがログインした際に最初に表示されるホームページを、プロファイルごとにカスタマイズできます。例えば、営業担当者には「今日の行動予定」「今月の目標達成率グラフ」などを表示させることで、各自が取るべきアクションを明確にします。
10. ビュー(リストビュー)の作成
課題
「たくさんの取引先の中から、自分が担当する東京の顧客だけをすぐに見たい」
解決策
レコードの一覧を「リストビュー」と呼びます。「自分が担当する」「今月クロージング予定の」といった条件で絞り込んだビューを自分で作成・保存しておけば、目的のデータに素早くアクセスできます。
「標準機能」と「開発」の判断基準
標準機能のカスタマイズで多くのことが実現できる一方、どうしても対応できない要件も存在します。どのような場合に「開発」を検討すべきか、その判断基準を解説します。
複雑な業務ロジックや計算が必要な場合
標準の自動化ツール(フロー)では、設定できる条件分岐や実行できる処理に限界があります。業界特有の複雑な料金体系に基づく自動計算や、複数の情報を集計してレコードを自動更新するような、フローでは実現不可能なプロセスには開発が必要です。
外部システムとのリアルタイムな双方向連携
標準機能にも外部連携の仕組みはありますが、基幹システム(ERP)の在庫データとSalesforceの商談情報をリアルタイムで双方向に同期させたい場合など、高度な連携には開発が必要になります。
独自のユーザーインターフェース(UI)が必要な場合
Salesforceの標準画面のデザインや操作性を根本から変更し、現場が直感的に操作できるような独自の入力画面や、情報をグラフィカルに表示する全く新しい画面を構築したい場合は、開発の領域となります。
大量のデータ処理を自動化したい場合
フローなどの標準ツールは、一度に処理できるデータ量に制限があります。毎晩、数十万件の顧客データを名寄せしたり、外部からの大量データを加工・登録したりするようなバッチ処理には、開発による対応が必要です。
【事例紹介】カスタマイズの成功事例3選
実際にカスタマイズによってどのような効果が生まれるのか、具体的な3つの成功事例をご紹介します。
事例1:営業プロセスの効率化(商談フェーズの自動更新)
ある商社では、営業担当者が見積書を作成しても、多忙さからSalesforceの商談フェーズの更新を忘れがちでした。その結果、営業会議での報告とシステム上の数字にズレが生じ、マネージャーは正確な状況把握ができないという問題を抱えていました。
そこで、帳票アプリとSalesforceの自動化機能(フロー)を連携させ、「見積書を作成したら、自動で商談フェーズが『提案中』に更新される」という仕組みを構築。このシンプルな自動化によって更新漏れは一掃され、マネージャーはダッシュボードで常にリアルタイムの正確な営業状況を把握できるようになり、的確な指示が出せるようになりました。
事例2:顧客サポートの品質向上(問い合わせ内容に応じた自動割り当て)
Webからの問い合わせを手動で振り分けていたある企業では、対応の遅れや担当者の割り振りミスが課題でした。このままでは顧客満足度の低下に繋がると懸念されていました。
この問題を解決するため、Webからの問い合わせ内容に応じて、自動で適切な専門チームに案件が割り当てられるフローを構築。これにより、問い合わせから担当者への割り当てが即座に完了し、回答までの時間が大幅に短縮されました。専門の担当者が迅速に対応できる体制が整い、サポート品質と顧客満足度の向上に大きく貢献しています。
事例3:経営判断の迅速化(リアルタイム予実管理ダッシュボード)
多くの企業同様、この会社でも予実管理をExcelで行っており、集計に時間がかかるため、経営会議の数字は常に古いものでした。これでは、変化の速い市場に対応した迅速な意思決定は望めません。
そこで、商談データと予算データをSalesforceに集約し、「リアルタイム予実管理ダッシュボード」を構築。全社・部署・個人別の売上実績と予算、達成率、着地見込みがいつでも一目でわかるようになりました。経営層は常に最新の業績を把握し、データに基づいた迅速な経営判断を下せる体制を整えることができました
Salesforceカスタマイズを成功させるための5つの注意点
最後に、カスタマイズプロジェクトを成功に導くために、心に留めておくべき5つの重要なポイントをご紹介します。
1. 目的を明確にする(カスタマイズのためのカスタマイズにしない)
最も重要なのは、「何のためにカスタマイズするのか?」という目的を常に明確にすることです。「このカスタマイズで、どの業務の課題を解決し、どんな効果を得たいのか」を具体的に定義しましょう。
2. 標準機能を最大限活用する姿勢を持つ
いきなり開発を検討するのではなく、「この要件は標準機能で実現できないか?」を徹底的に調査する姿勢が重要です。標準機能を使いこなすことで、コストを抑え、将来のバージョンアップの影響も受けにくくなります。
3. スモールスタートを心がける
最初から完璧なシステムを目指すのではなく、最も課題が大きく、改善効果が見えやすい部分に絞って着手しましょう(スモールスタート)。実際に利用してフィードバックをもらい、改善を繰り返していくアプローチが定着に繋がります。
4. 運用・保守体制を考慮する
システムは作って終わりではありません。特に開発を行った場合、誰がメンテナンスするのか、バージョンアップにどう対応するのか、といった運用・保守体制を事前に計画しておくことが不可欠です。
5. 信頼できるパートナーを見つける
自社だけでの対応が難しい場合、外部パートナーへの依頼は有効な選択肢です。単に開発力だけでなく、自社のビジネスを深く理解し、課題解決に向けて並走してくれるコンサルティング能力も重視しましょう。
【Q&A】Salesforceカスタマイズのよくある質問
Q1. カスタマイズの費用はどれくらいかかりますか?
A. 一概には言えませんが、大まかな目安は以下の通りです。
標準機能のカスタマイズ
Salesforceのライセンス費用内で、追加費用はかかりません。
AppExchangeアプリの導入
アプリによりますが、ユーザー単位の月額課金や組織単位での年額課金など様々です。
独自開発
要件により数十万円から数百万円以上と大きく変動します。簡単な画面追加から、外部連携など本格的な開発まで様々です。必ず複数の開発会社から見積もりを取りましょう。
Q2. 自分でカスタマイズを学ぶことはできますか?おすすめの学習方法は?
A. はい、非エンジニアの方でも標準機能のカスタマイズは十分に学習可能です。最もおすすめなのは、Salesforceが提供する無料のオンライン学習ツール「Trailhead(トレイルヘッド)」です。ゲーム感覚で体系的に学べますので、「システム管理者初級」などのコースから始めてみてください。
Q3. どこから手をつければいいか分かりません。最初の一歩は?
A. まずは「現場の課題の洗い出し」と「標準機能でできることの棚卸し」から始めましょう。実際にSalesforceを利用するユーザーにヒアリングを行い、具体的な課題をリストアップします。その上で、本記事で紹介したような標準機能で解決できそうなことがないか、一つひとつ照らし合わせてみてください。
まとめ
本記事では、Salesforceカスタマイズの全体像から、非エンジニアでも始められる標準機能の活用法、そして開発が必要になるケースの見極め方までを、事例を交えて網羅的に解説しました。Salesforceは導入して終わりではなく、自社の業務に合わせて「育てる」ことで、その真価を発揮するビジネスツールです。
成功への第一歩は、現場の「使いにくい」「面倒だ」といった小さな不満や非効率な作業をリストアップすることから始まります。次に、いきなり開発を検討するのではなく、まずは標準機能で解決できないかを徹底的に探りましょう。それが最も低コストで確実な方法です。そして、どうしても実現できない要件が出てきた時に初めて、AppExchangeや開発パートナーという選択肢を視野に入れます。
完璧なシステムを一度に作ろうとせず、小さな改善をスモールスタートで繰り返していくこと。その積み重ねが、あなたの会社のSalesforceを、ビジネスを加速させる原動力へと変えていきます。この記事が、そのきっかけとなれば幸いです。