【2025年版】Salesforceの名寄せ自動化ガイド!
目次
「Salesforce内に、同じ会社が『(株)〇〇』と『株式会社〇〇』で別々に登録されている…」
「マーケティングチームが送ったメールが、同じ会社の別々の担当者に届いてしまい、クレームになった…」
「重複データが多すぎて、正確な売上レポートが作れず、経営判断に活用できない」
Salesforceを運用する多くの企業が、このような「データの重複」問題に頭を悩ませています。顧客データは企業の重要な資産ですが、手入れを怠れば、その価値は下がる一方。やがて、誰も信用しない「データのゴミ屋敷」と化してしまいます。
この問題を解決する鍵が、「名寄せ」、そしてその「自動化」です。
この記事では、データ活用の専門家として、Salesforceの名寄せを自動化するための具体的な手法を、基本から応用まで徹底的に解説します。
名寄せとは?
データクレンジング
データの「大掃除」。誤字脱字の修正、古い情報の更新、そして重複データの統合など、データの品質を向上させるための一連の作業を指します。
名寄せ
データクレンジングの中でも、特に「重複しているデータ(レコード)を特定し、一つに統合(マージ)する」作業を指します。
データガバナンス
データを適切に管理・運用するための、組織的なルールや体制のこと。名寄せは、このデータガバナンスを維持するための重要な活動の一つです。
なぜSalesforceの名寄せが重要なのか?
「データは21世紀の石油である」と言われるように、データは現代ビジネスの根幹をなす資産です。しかし、重複し、古くなったデータは、資産どころか深刻な「負債」となり得ます。
データ重複が引き起こす、3つの深刻なビジネスリスク
リスク1:営業・マーケティング活動の非効率化と機会損失
同じ会社に複数の営業担当者が気づかずにアプローチしてしまったり、ある担当者が掴んだ重要な情報が、別の担当者が管理する重複レコードに反映されなかったりと、深刻な非効率と機会損失を生み出します。
リスク2:顧客体験の低下とブランドイメージの毀損
一度断られたはずの提案が、別の担当者から再度届く。部署を異動したはずなのに、いつまでも古い部署宛にメールが来る。こうした経験は、顧客に「この会社は、自分のことを全く理解していない」という不信感を与え、ブランドイメージを大きく損ないます。
リスク3:データ分析の精度低下と、誤った経営判断
「今月、新規で取引を開始した企業は10社です」という報告も、そのうち3社が既存顧客の重複登録だったとしたらどうでしょう。不正確なデータに基づく分析は、誤った経営判断を導き、企業を危険な方向へと進ませるリスクをはらんでいます。
Salesforceの名寄せを自動化する3つの方法
Salesforceで名寄せを自動化するには、大きく分けて3つの方法があります。それぞれに特徴があり、自社の状況に合わせて最適なものを選択することが重要です。
方法1:【基本】標準機能「重複ルール」と「一致ルール」を使いこなす
Salesforceには、追加費用なしで利用できる、強力な重複データ防止・管理機能が標準で備わっています。
重複ルールの設定方法と限界
「設定」メニューから、どの項目が一致した場合に重複とみなすか(一致ルール)と、重複が検知された場合にどうするか(警告を表示する、作成をブロックする、など)という重複ルールを定義できます。これにより、「未来の」重複データ発生を予防することが可能です。しかし、「過去に」作成されてしまった既存の重複データを自動で統合する機能はない、という点が限界です。
Lightning Experienceでの重複管理機能
重複の可能性があるレコードが見つかった場合、レコードページに警告が表示され、ユーザーは手動でレコードを比較し、統合(マージ)することができます。
【こんな企業に最適】
- まずはコストをかけずに、重複データの「予防」から始めたい企業。
- データの発生源が限定されており、手動でのマージ作業が現実的な範囲で収まる企業。
方法2:【王道】AppExchangeの名寄せ・データクレンジングツールを活用する
より高度で本格的な名寄せの自動化を実現するなら、AppExchangeで提供されている専用ツールの活用が最も一般的な選択肢です。
<名刺管理起点> Sansan / SmartVisca
名刺管理サービスと連携し、常に最新かつ正確な人物情報・企業情報をSalesforceに反映させます。同一人物の名刺が複数部署でスキャンされても、一つの取引先責任者に集約するなど、名刺情報を起点とした高精度な名寄せが可能です。
<法人マスタ起点> uSonar (ユーソナー) / FORCAS
日本最大級の法人マスタデータを活用し、Salesforce内の企業データをリッチ化・正規化します。表記の揺れ(例:「(株)」と「株式会社」)や、企業グループの資本関係などを考慮した、高度な法人名寄せを実現します。
ツール選定のポイントと比較表
| 比較軸 | 標準機能 | 名刺管理起点ツール | 法人マスタ起点ツール |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 重複の予防 | 人物情報の正規化・最新化 | 法人情報の正規化・リッチ化 |
| 既存データの自動名寄せ | × (手動) | ◎ | ◎ |
| コスト | 無料 | 中〜高 | 中〜高 |
| 強み | コスト、予防 | 最新の役職・連絡先 | 企業属性、資本系列 |
【こんな企業に最適】
- 名刺交換が多く、人物情報の重複や陳腐化に悩んでいる企業(名刺管理起点)。
- ABM(アカウントベースドマーケティング)を実践するため、正確な企業属性データでターゲティング精度を高めたい企業(法人マスタ起点)。
方法3:【上級編】フローやApexを使い、独自の自動化ロジックを構築する
標準機能では不十分、しかしAppExchangeツールもフィットしない、という特殊な要件がある場合は、Salesforceの自動化ツール「フロー」や、プログラミング言語「Apex」を使って、独自の自動化ロジックを構築する方法もあります。
どのような場合に有効か?
業界特有のルール(例:医療機関コードで名寄せしたい)や、非常に複雑な名寄せロジック(複数の外部データソースを突き合わせるなど)が必要な場合に検討されます。
フローを使った定期的な重複チェックの仕組み(概要)
スケジュールトリガフローを使い、夜間に取引先レコードを全件チェックし、特定の条件(例:社名と電話番号が一致)で重複の可能性があるレコードをリストアップし、データ管理者に通知する、といった仕組みを構築できます。ただし、開発とメンテナンスに高度な専門知識が必要です。
【こんな企業に最適】
- 社内にSalesforceの開発スキルを持つエンジニアがいる企業。
- 既存のツールでは対応できない、極めて特殊で複雑な名寄せ要件を持つ企業。
自社に最適な「名寄せ自動化」手法の選び方
3つの方法を紹介しましたが、自社に最適なものはどれでしょうか。以下の3つの判断軸で考えてみましょう。
判断軸1:データの発生源(どこから重複データが生まれるか?)
手入力がメイン
まずは標準機能の「重複ルール」で、入力時の予防を徹底するのが第一歩です。
名刺交換が多い
名刺管理起点のAppExchangeツールが最も効果的です。
Webフォームからの流入が多い
フォーム連携機能に優れたMAツールや、法人マスタ起点のツールが有効です。
判断軸2:求めるデータの品質レベルと、カバー範囲(国内/海外)
社内の表記揺れを統一できれば良い
標準機能や、シンプルなロジックのフローで対応できる可能性があります。
常に最新の役職や企業情報でリッチ化したい
AppExchangeツールの導入が不可欠です。
海外企業との取引が多い
ZoomInfoなど、海外企業情報に強いツールを検討する必要があります。
判断軸3:社内のITリソースと予算
予算をかけられない、IT担当者がいない
まずは標準機能を最大限に活用することから始めましょう。
一定の予算があり、迅速に成果を出したい
AppExchangeツールの導入が最も費用対効果が高い選択です。
高度な開発スキルを持つ人材がいる
独自の開発も視野に入りますが、メンテナンスコストも考慮した慎重な判断が必要です。
名寄せ自動化プロジェクトの進め方 4ステップ
手法を決めたら、次は実行です。思いつきで進めるのではなく、計画的にプロジェクトを進めましょう。
Step1:現状把握とゴール設定(データ品質の棚卸し)
まず、自社のデータが現在どのような状態にあるのかを客観的に把握します。重複率は何%、必須項目の入力率は何%かなどを分析し、「半年後までに、取引先の重複率を1%未満にする」といった具体的なゴールを設定します。
Step2:名寄せルールの定義(何を「重複」とみなすか?)
プロジェクトの根幹です。「社名と電話番号が一致したら重複」「社名と住所が一致したら重複」など、自社における「重複」の定義を明確にルール化します。このルールが曖昧だと、自動化は不可能です。
Step3:スモールスタートでのツール・手法の検証
いきなり全データに適用するのではなく、まずは一部のデータや特定の部署に限定して、選定したツールや手法を試します。ここで名寄せの精度や、現場への影響を評価し、問題点を洗い出します。
Step4:全社展開と、運用ルールの策定・周知
検証で得られた知見を基にルールを改善し、全社に展開します。同時に、「今後は、このルールに従ってデータを入力してください」という運用ルールを策定し、全ユーザーに周知徹底することが不可欠です。
継続的なデータ品質管理の仕組み作り
名寄せは、一度やれば終わりではありません。日々新しいデータが生まれる以上、何もしなければデータは再び汚れていきます。重要なのは、継続的にデータの品質を維持する「仕組み」です。
データ入力規程の策定とトレーニング
誰が、いつ、どの項目を、どのような形式で入力するのかを定めた、全社共通の「データ入力規程」を策定し、定期的にトレーニングを行います。
定期的なデータ品質のモニタリングと改善
Salesforceのダッシュボード機能を活用し、「重複レコードの発生件数」や「必須項目の入力率」といったデータ品質に関するKPIを定点観測し、問題があればすぐに対策を打ちます。
データスチュワード(データ品質責任者)の任命
部署ごとに、データ品質の維持・向上に責任を持つ「データスチュワード」を任命することも有効です。現場からの改善要望の吸い上げや、ルールの徹底を担います。
よくある質問 (Q&A)
Q1. 既存の重複データは、どうやってクレンジングすればいいですか?
A1. 既存データのクレンジングは、まず「重複の特定」と「統合(マージ)」の2つのステップで行います。Salesforceの標準機能で手動マージも可能ですが、データ量が多い場合は、AppExchangeツールが持つ一括クレンジング機能を活用するのが最も効率的です。プロジェクトの初期段階で、この「初回クレンジング」の計画を立てることが非常に重要です。
Q2. AppExchangeツールを導入する場合の費用相場は?
A2. ツールの種類や、対象となるSalesforceのユーザー数、データ量によって大きく異なりますが、一般的に年間数十万円から数百万円の費用がかかることが多いです。名刺管理ツールや法人マスタツールなど、高機能なものはそれ以上の価格になる場合もあります。複数のツールから見積もりを取り、機能と費用対効果を比較検討することが不可欠です。
Q3. 個人情報の「名寄せ」を行う上での注意点はありますか?
A3. 個人情報保護法の観点から注意が必要です。特に、異なるソースから得た個人情報を統合する際には、それぞれの情報の取得経緯や、本人の同意の範囲を明確に確認する必要があります。名寄せによって、本人が意図しない形で情報が利用されることがないように、自社のプライバシーポリシーと照らし合わせ、必要であれば法務部門に相談するなど、慎重な対応が求められます。
まとめ
Salesforceの名寄せ自動化は、単なる面倒なデータ整理作業ではありません。それは、企業の最も重要な資産である「データ」の価値を最大化し、営業・マーケティングから経営判断まで、あらゆる企業活動の精度を高めるための、極めて戦略的な投資です。
汚れたデータを放置することは、ビジネスの成長にブレーキをかけるだけでなく、顧客からの信頼を失うリスクにも繋がります。この記事を参考に、自社に最適な名寄せ自動化の仕組みを構築し、真のデータドリブン経営への第一歩を踏み出しましょう。