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No.27
更新日 2025年08月16日

クロスセルとは?アップセルとの違い、売上を伸ばすコツを徹底解説

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「ECサイトで、お客様はいつも1点しか商品を買ってくれない…」
「主力製品は売れるのに、他の関連サービスが全く提案できていない…」
「『ご一緒にポテトはいかがですか?』のように、自然な形で『ついで買い』を促したいが、方法がわからない」

企業の売上を安定的に成長させる上で、新規顧客の獲得と並行して「顧客単価の向上」は極めて重要なテーマです。その最も強力な手法の一つが「クロスセル」です。しかし、多くの担当者がその本質を理解しないまま、闇雲なレコメンドで顧客を混乱させたり、提案の機会そのものを見逃したりしているのが実情です。

この記事では、顧客単価とLTVの向上に直結する「クロスセル」について、その基本的な概念から、アップセルとの明確な違い、そして具体的な成功テクニックまでを網羅的かつ体系的に解説します。

クロスセルとは?

まずは、クロスセルの基本的な定義と、関連用語との違いを正確に理解することから始めましょう。

クロスセルの定義

クロスセルとは、ある商品の購入を検討している、あるいは購入した顧客に対し、その商品と関連性の高い別の商品を提案し、「合わせ買い(合わせ売り)」を促すことで顧客単価の向上を目指す営業・マーケティング手法のことです。

ハンバーガーを買いに来た顧客に「ご一緒にポテトはいかがですか?」と勧めるのが、最も分かりやすいクロスセルの例です。他にも、ECサイトでカメラを購入した人に、メモリーカードや三脚をレコメンドするなどがこれにあたります。

「アップセル」「ダウンセル」との決定的な違い

クロスセルは、「アップセル」「ダウンセル」としばしば混同されます。それぞれの目的とアプローチは全く異なるため、明確に区別して使い分けることが重要です。

手法目的具体例
クロスセル購入点数を増やす(合わせ買い)PC + マウス
アップセル顧客単価を上げる(上位商品への変更)PC(スタンダードモデル) → PC(プロモデル)
ダウンセル失注を防ぐ(下位商品への変更)PC(プロモデル)が予算オーバー → PC(スタンダードモデル)

アップセル (Up-sell)

検討中の商品よりも高価格な上位モデルを提案する手法。

ダウンセル (Down-sell)

検討中の商品が予算に合わない場合に、安価な下位モデルを提案し、購入自体を諦めさせない手法。

なぜクロスセルが重要?

クロスセルが重要な理由は、単に顧客単価が上がるからだけではありません。

LTV(顧客生涯価値)の向上

顧客単価が上がることで、当然LTVも向上し、企業の収益基盤が安定します。

顧客満足度の向上

顧客自身が気づいていなかった「あったら便利な商品」を提案することは、顧客の課題をより完全に解決し、購買体験そのものの満足度を高めることに繋がります。「良い提案をしてくれてありがとう」と感謝されるケースも少なくありません。

クロスセル成功の絶対原則

クロスセルと聞くと、「押し売り」のイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、成功するクロスセルの本質は全く異なります。

顧客がクロスセルを受け入れる心理:「選ぶ手間が省ける」「より良い体験ができる」

顧客は、自身の課題を解決するために商品を購入します。例えば、新しいPCを買う目的は「快適に仕事がしたい」ことです。その際、「快適なPC環境には、マウスやキーボードも必要だな」と考えますが、数ある選択肢から最適なものを選ぶのは面倒です。

そこで、「このPCをお使いの多くの方が、こちらのマウスを一緒に購入されています」と提案されれば、顧客は「選ぶ手間が省けた」「最適な組み合わせを教えてくれた」と感じ、喜んで購入するでしょう。優れたクロスセルは、顧客の課題解決を助け、より完璧なソリューションを提供する行為なのです。

闇雲なレコメンドが顧客満足度を下げる理由

一方で、関連性の低い商品を闇雲に薦めるのは逆効果です。例えば、高性能なゲーミングPCを購入した人に、事務作業用の安価なマウスを薦めても、「この店員は何も分かっていないな」と不信感を与えるだけです。クロスセルは、深い顧客理解があって初めて成功するのです。

【4ステップで実践】自社のクロスセル戦略を構築する方法

効果的なクロスセルは、偶然生まれるものではありません。データに基づいた戦略的な設計が不可欠です。

STEP1:購買データを分析し、「一緒に買われやすい商品」の組み合わせを発見する

まずは、自社の購買データを分析することから始めます。CRMやECプラットフォームのデータを使い、「商品Aを購入した顧客は、どの商品を一緒に購入しているか(併売率)」を分析します。これにより、データに基づいた、最も確度の高い商品の組み合わせが見えてきます。

STEP2:顧客の課題や利用シーンを想定し、「あったら便利な商品」を定義する

データ分析に加え、顧客の視点に立って、「商品Aを使う時、他にどんな物があればもっと便利になるだろうか?」「顧客が抱える根本的な課題を解決するには、他にどんなサービスが必要だろうか?」と考えます。顧客アンケートや営業担当者へのヒアリングも有効です。

STEP3:提案する「タイミング」と「場所」を設計する

発見した組み合わせを、どのタイミング・どの場所で提案するかを設計します。

区分内容
ECサイトの例商品ページ、カート投入時のポップアップ、決済完了ページ、購入後のサンクスメールなど。
BtoB営業の例初回提案時、契約交渉時、導入後のフォローアップ時など。

STEP4:効果を測定し、提案内容を最適化する

施策を実行したら、必ず効果を測定します。「そのレコメンド経由でのクリック率や購入率はどのくらいか」「クロスセル提案による顧客単価はどれだけ上がったか」などを分析します。そして、提案する商品の組み合わせや、表示方法などを変えてABテストを行い、継続的に成果を改善していきます。

クロスセルを成功させる具体的な7つのコツとテクニック

戦略を具体的なアクションに落とし込むための、7つのコツを紹介します。

コツ1:関連性の高い商品に絞って提案する

基本中の基本ですが、最も重要です。提案する商品は、メインの商品との関連性が一目見て分かるものに絞りましょう。

コツ2:セット購入による「お得感」を演出する(バンドル販売)

「単品で買うより〇〇円お得」といったセット割引(バンドル販売)は、顧客の購買意欲を強力に後押しします。

コツ3:「他の顧客」の購買データを活用する(レコメンド)

「この商品を買った人はこんな商品も購入しています」というレコメンドは、「自分と同じような人が選んでいるなら間違いないだろう」という社会的証明の心理が働き、非常に効果的です。

コツ4:最適な「タイミング」で提案する

顧客が最も購入意欲が高まっている、購入直前(カート画面など)や購入直後(サンクスページなど)は、クロスセルのゴールデンタイムです。

コツ5:提案する理由(ベネフィット)を明確に伝える

「なぜ」その商品を薦めるのか、その理由と顧客が得られるメリットを簡潔に伝えましょう。「このカメラには手ブレ補正がないので、こちらの三脚を一緒に使うと、夜景も綺麗に撮れますよ」といった形です。

コツ6:提案する商品数を絞る

選択肢が多すぎると、顧客は選ぶことができず、結局何も買わないという「選択のパラドックス」に陥ります。提案する商品は、多くても3つ程度に絞り込みましょう。

コツ7:購入後のフォローで、次のクロスセルの機会を創る

購入後のフォローメールなどで、「ご購入いただいた〇〇の使い心地はいかがですか?もし△△でお困りでしたら、こちらの□□という商品がおすすめです」と、顧客の状況に合わせた次のクロスセル提案に繋げます。

【BtoC編】ECサイト・小売店におけるクロスセル実践例

商品ページでの「この商品を買った人はこんな商品も見ています」

Amazonでよく見られる、購買データを活用したレコメンド機能。顧客の潜在的な興味を引き出し、サイト内の回遊を促します。

カート画面での「この商品と一緒によく購入されています」

カートに入れた商品との関連性が非常に高い商品を提案する手法。購入直前で最も効果を発揮しやすい場所です。

レジ横での「ついで買い」を促す商品陳列

スーパーやコンビニのレジ横に、ガムや電池といった安価な商品が置かれているのが典型例。会計を待つわずかな時間に、衝動的な「ついで買い」を誘発します。

【BtoB編】営業・カスタマーサクセスにおけるクロスセル実践例

提案時の「オプション」としての提示

主力製品を提案する際に、「基本機能はこちらのプランAですが、〇〇という課題も同時に解決されたい場合は、オプションBを追加することも可能です」と、顧客のニーズに合わせて複数の選択肢を提示します。

導入後の活用支援の中での、潜在ニーズの発見と提案

カスタマーサクセス担当者が、顧客のサービス利用状況をヒアリングする中で、「最近、〇〇という業務でお困りのようですね。実は、弊社の△△という別サービスを使えば、その業務も効率化できますよ」と、新たな課題を発見し、解決策として別の製品を提案します。

具体的な提案トーク・メール文例

「〇〇の導入、誠にありがとうございます。導入後の活用支援を担当しております△△です。オンボーディングを進める中で、貴社のマーケティング部門では現在、リード育成に課題をお持ちだと伺いました。もしよろしければ、弊社が提供しておりますMAツール『□□』が、その課題解決に非常にお役立ちできるかと存じます。まずは簡単に、どのようなツールかご紹介させていただけませんか?」

成功事例に学ぶ、優れたクロスセル戦略

事例1:マクドナルド(「ご一緒にポテトはいかがですか?」)

あまりにも有名な、クロスセルの代名詞とも言えるフレーズ。顧客の意思決定プロセスに自然に組み込まれ、断られても全く気まずくならない、完璧なオペレーションです。

事例2:Amazon(精度の高いレコメンドエンジン)

膨大な購買データとAIを活用した、パーソナライズされたレコメンデーションは、Amazonの収益を支える重要な柱です。顧客一人ひとりに「私のことをよく分かってくれている」と感じさせ、クロスセルを成功に導いています。

事例3:ユニクロ(スタイリング提案による合わせ買い促進)

ECサイトやアプリ上で、特定の商品を使ったコーディネート(スタイリング)を数多く提案。トップスを買いに来た顧客に、それに合うパンツやアウターを一緒に見せることで、自然な「合わせ買い」を促しています。

クロスセルに関するQ&A

Q. クロスセルに最適なタイミングはいつですか?

A. 顧客の購買意欲が最も高まっている瞬間です。ECサイトであれば、商品をカートに入れた直後や決済完了画面。BtoB営業であれば、メインの提案内容に顧客が合意した直後などが挙げられます。

Q. 提案した関連商品が、顧客のニーズに合わなかった場合は?

A. 全く問題ありません。 重要なのは、顧客の反応を見て、すぐに引き下がることです。「承知いたしました。でしたら、今回は結構です」と潔く諦め、メインの商品の話に戻りましょう。しつこく理由を聞いたり、別の商品を薦めたりするのはNGです。

Q. クロスセルの成功率を測る指標(KPI)はありますか?

A. ECサイトであれば「クロスセル率(クロスセルが成功した取引数 ÷ 全取引数)」「平均注文単価(AOV)」が直接的な指標になります。BtoBであれば、「1顧客あたりの導入サービス数」「LTV」の推移を追うのが良いでしょう。

まとめ

本記事では、クロスセルの基本的な考え方から、戦略の立て方、具体的なテクニックや事例までを網羅的に解説しました。

優れたクロスセルは、単に売上を上げるためのテクニックではありません。その本質は、顧客のことを深く理解し、その課題やニーズを先回りして、より完璧な解決策を提示するという、日本的な「おもてなし」の心に通じる、高度なコミュニケーションです。

「これを一緒に使えば、お客様はもっと幸せになれるはずだ」。
その純粋な思いが、顧客に喜ばれる最高のクロスセル提案を生み出し、結果として、売上と顧客との信頼関係の両方を、あなたの会社にもたらしてくれるでしょう。

クロスセルを支える顧客理解には企業データベース「SalesNow」

顧客に本当に喜ばれるクロスセルを実現するには、相手企業の課題やニーズを正確に把握することが不可欠です。

「SalesNow」は、全国540万社を網羅した業界最大級の企業データベース。部署・拠点・人物単位の情報まで把握できるため、より的確な提案の下支えとなります。信頼される提案の第一歩に、ぜひご活用ください。

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