明日から使える!フィードバックの伝え方・受け取り方 実践ガイド【シーン別例文集】
目次
「部下の成長を願うフィードバックが、なぜか相手のやる気を削いでしまう」「上司からの指摘に、つい落ち込んでしまう」。ビジネスシーンでよくある、こんなすれ違いに悩んでいませんか?
本来、フィードバックは過去を責める「ダメ出し」ではなく、未来の成長を願う「贈り物」です。本記事では、相手が前向きになる「伝え方」と、指摘を成長に変える「受け取り方」の両面から、すぐに実践できるコツを具体的な例文と共に解説します。明日からのコミュニケーションを変え、信頼関係を深めるヒントがここにあります。
フィードバックとは?
「フィードバック」という言葉は日常的に使われますが、その正確な意味や目的を深く理解している人は意外と少ないかもしれません。まずは基本に立ち返り、その定義と重要性を確認しましょう。
フィードバック(Feedback)の語源は、「Feed(食べ物を与える・養う)」と「Back(返す)」という2つの単語の組み合わせです。元々は工学分野で「出力した結果を入力側に戻すことで、システムの自動調整を行うこと」を指す用語でした。
これを人材育成の文脈に置き換えると、「相手の行動や結果に対して、具体的な情報(評価や事実)を伝えることで、本人の気づきを促し、未来の行動がより良い方向へ修正・強化されるよう支援するアプローチ」と定義できます。
重要なのは、過去の行動を評価するだけでなく、未来の成長に繋げるという目的がある点です。
「評価」「レビュー」「アドバイス」との違い
フィードバックと混同されがちな言葉との違いを明確にしておきましょう。
| 用語 | 主な目的 | 時間軸 | 内容 |
|---|---|---|---|
| フィードバック | 未来の行動変容を促す | 未来志向 | 具体的な事実に基づき、行動による影響を伝える |
| 評価 (人事評価) | 過去の業績や能力を査定する | 過去志向 | 基準に基づいて優劣や等級を判断する |
| レビュー | 過去の活動を振り返り、分析する | 過去志向 | プロジェクトの進捗や成果物などを多角的に検証する |
| アドバイス | 相手の悩みや問題に解決策を提示する | 未来志向 | 主観的な意見や経験に基づき、具体的な方法を教える |
フィードバックは、評価のように一方的に判断を下したり、アドバイスのように自分の意見を押し付けたりするものではありません。あくまで事実を鏡のように伝え、相手に「気づき」を与え、自発的な行動変容を促すことが本質です。
フィードバックによるメリット
変化の激しい現代のビジネス環境において、フィードバックの重要性はますます高まっています。
人材育成の加速
従来の画一的な研修だけでは、多様化する個々の課題に対応しきれません。日々の業務におけるタイムリーなフィードバックこそが、個人のスキルや能力を最も効果的に伸ばす鍵となります。
従業員エンゲージメントの向上
従業員は「自分の仕事が見られており、成長を期待されている」と感じることで、仕事への熱意や貢献意欲(エンゲージメント)が高まります。適切なフィードバックは、承認欲求を満たし、エンゲージメント向上に直結します。
組織全体のパフォーマンス向上
個々の従業員がフィードバックを通じて成長し、パフォーマンスを向上させることは、チーム全体の生産性向上、ひいては組織全体の競争力強化に繋がります。建設的なフィードバックが活発に行われる組織は、変化に強く、継続的に成長できる文化が根付きます。
【基本】知っておきたいフィードバックの種類
フィードバックは、その内容や目的によっていくつかの種類に分けられます。代表的な2つの種類を理解しておきましょう。
ポジティブフィードバック
ポジティブフィードバックとは、相手の良い行動や成果、優れた点などを具体的に伝え、その行動を承認・称賛するものです。
主な目的
相手の自己肯定感を高め、モチベーションを向上させます。また、望ましい行動を本人が認識し継続するよう促し、成功体験を自信に繋げる効果があります。
具体例
「〇〇さんが会議で使っていたデータ、非常に分かりやすくて説得力があったよ。あのおかげで議論がスムーズに進んだね。」
ネガティブフィードバック
ネガティブフィードバックとは、相手の改善すべき行動や修正が必要な点について伝えるものです。「改善のためのフィードバック」や「建設的批判」とも呼ばれます。
主な目的
本人が気づいていない問題点や課題を認識させます。そして、行動を軌道修正し目標達成をサポートしたり、より高い基準や期待値を伝えたりすることで成長を促します。
具体例
「先日のクライアントへの提案資料、要点はよくまとまっていたけれど、誤字が3箇所あったよ。提出前にもう一度確認する習慣をつけよう。」
ネガティブフィードバックを伝える重要性
特にネガティブフィードバックは伝え方が難しく、相手を傷つけてしまうリスクも伴います。しかし、これを避けていては、相手は自身の課題に気づくことができず、大切な成長の機会を失ってしまいます。
相手の未来のために伝えるという意識を持ち、後述する「伝え方のコツ」をマスターすることが非常に重要です。
【実践・伝え方編】相手の成長を促す建設的フィードバックの5つのコツ
ここからは、相手が前向きに受け止め、行動変容に繋がる建設的なフィードバックの伝え方を5つのコツに分けて解説します。
1. 具体的な事実に基づいて伝える(SBIモデルの活用)
最も重要なのが、主観的な感想や評価ではなく、客観的な「事実」に基づいて伝えることです。その際に非常に有効なフレームワークが「SBIモデル」です。
SBIモデルとは、以下の3つの要素で構成されます。
S (Situation): 状況
いつ、どこで、どのような状況だったか
B (Behavior): 行動
相手が「具体的に」どのような言動をとったか
I (Impact): 影響
その行動が、周囲や自分にどのような影響を与えたか
このモデルに沿って伝えることで、フィードバックが具体的かつ客観的になり、相手は納得しやすくなります。
悪い例
「君はいつも報告が遅いな。もっと早くしてくれないと困るよ。」
良い例(SBIモデル活用)
- S (状況): 「先週金曜日の、〇〇プロジェクトの週次報告の件なんだけど」
- B (行動): 「締め切りが15時だったところ、18時に報告があったよね」
- I (影響): 「報告を待ってから作業を始める予定だった他部署のメンバーを3時間待たせることになってしまって、プロジェクト全体に少し遅れが出そうなんだ」
このように伝えることで、相手は事実を冷静に受け止め、自分の行動が与えた影響を具体的に理解することができます。
2. 相手へのリスペクトと肯定的な意図を明確にする
フィードバックは、あくまで相手の成長を願って行うものです。そのポジティブな意図を最初に伝えましょう。「サンドイッチ型」と呼ばれる手法も有効です。
サンドイッチ型
- 【パン】 ポジティブな言葉(クッション言葉、感謝、褒め言葉)
- 【具】 伝えたい本題(改善点など)
- 【パン】 ポジティブな言葉(期待、励まし)
具体例
「いつも熱心に取り組んでくれてありがとう。君の成長を期待しているからこそ、一つ伝えたいことがあるんだ。(SBIモデルで改善点を伝える)。この点を改善すれば、もっと素晴らしい成果が出せるはずだよ。期待してるね。」
3. タイミングを逃さず、タイムリーに行う
フィードバックは、可能な限り行動が行われた直後に行うのが最も効果的です。記憶が新しいうちに伝えることで、相手は具体的な状況を思い出しやすく、内容を深く理解できます。
数ヶ月前のことを持ち出して「あの時もそうだったけど…」と指摘するのは、相手にとっては「なぜ今更…」という不信感に繋がりかねません。日頃から相手の行動をよく観察し、適切なタイミングで声をかけることを意識しましょう。
4. 「I(アイ)メッセージ」で主観として伝える
相手の行動を断定的に批判する「Youメッセージ」ではなく、自分を主語にした「Iメッセージ」で伝えることを心がけましょう。
Youメッセージ(相手を主語に)
「あなた(You)はなぜ確認しなかったんだ?」→ 相手は責められていると感じやすい。
Iメッセージ(私を主語に)
「私(I)は、確認が漏れていたことを心配しているんだ。」→ 自分の感情や考えとして伝えるため、相手は受け入れやすくなる。
特にネガティブな内容を伝える際は、「(私は)〜と感じた」「(私は)〜してくれると嬉しい」といった表現を使うことで、一方的な決めつけではなく、あくまで自分の視点からの意見として、柔らかく伝えることができます。
5. 一方的に話さず「対話」を心がける
フィードバックは演説ではありません。一方的に伝えて終わりではなく、相手の考えや意見を聞く「対話」の姿勢が不可欠です。
- 「この点について、あなた自身はどう思う?」
- 「何かやりにくかった背景や理由はあった?」
- 「次に活かすために、どうすればいいと思う?」
このように質問を投げかけることで、相手は当事者意識を持ち、自ら解決策を考えるようになります。上司が答えをすべて与えるのではなく、部下が自ら答えを見つける手助けをすることが、真の育成に繋がります。
すぐに使える!フィードバックの伝え方例文集
ここでは、具体的なビジネスシーンを想定した会話形式の例文を紹介します。
1. 部下の良い行動をさらに伸ばしたい時(ポジティブ)
上司:「〇〇さん、少し時間いいかな?」
部下:「はい、課長。何でしょう?」
上司:「さっきのA社との打ち合わせ、お疲れ様。特に、先方が懸念していた納期について、代替案をその場で具体的に提案してくれただろう?(S:状況, B:行動) あの提案のおかげで、先方もすごく安心した様子だったし、私としても非常に助かったよ。ありがとう。(I:影響) 〇〇さんのそういう課題解決能力は、本当に素晴らしい強みだと思う。今後もぜひその力を発揮してほしい。」
部下:「ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。」
2. 報告書のミスを指摘し、改善を促したい時(ネガティブ)
上司:「〇〇さん、今ちょっといいかな。昨日提出してくれた報告書の件なんだけど。」
部下:「はい。」
上司:「データ分析の部分、非常によくまとまっていて分かりやすかったよ。ありがとう。(ポジティブなクッション) ただ、1点だけ気になったことがあって。最終ページの結論部分で、グラフの参照番号がいくつか間違っていたんだ。(S:状況, B:行動) このままクライアントに提出すると、少し信頼性を損ねてしまうかもしれないと感じたんだ。(I:影響, Iメッセージ) 次回からは、提出前に誰か別の人にダブルチェックしてもらうか、声に出して読み上げてみるのはどうかな?何か困っていることがあれば、いつでも相談してね。(対話と期待)」
部下:「申し訳ありません!確認が漏れていました。次からは必ずダブルチェックするようにします。」
3. 1on1ミーティングでキャリアについて話す時
上司:「この半期、〇〇さんはプロジェクトリーダーとして本当によくチームをまとめてくれたね。特に、難易度の高いB案件を最後までやり遂げた経験は、大きな自信になったんじゃないかな?」
部下:「はい、大変でしたが、非常に勉強になりました。」
上司:「その上で、今後のキャリアについてなんだけど。〇〇さんは今後、どんなスキルを伸ばしていきたいとか、挑戦してみたい役割とかはある?(対話の開始) 私としては、君の課題解決能力やリーダーシップを、もっと大きなプロジェクトで活かしてほしいと思っているんだ。(期待を伝える) もし君が望むなら、来期の新プロジェクトで、もう少し裁量の大きいポジションを任せてみたいと考えているんだけど、どうかな?」
部下:「本当ですか!ぜひ挑戦してみたいです。」
【実践・受け方編】フィードバックを成長の糧にする4つのステップ
フィードバックは「伝え方」と同じくらい「受け方」が重要です。ここでは、フィードバックを自分自身の成長に最大限活かすための4つのステップを紹介します。
1. まずは感謝の姿勢で、真摯に傾聴する
フィードバックをくれる相手は、あなたに関心を持ち、成長を願ってくれています。たとえ耳の痛い内容だったとしても、まずは「自分のために時間を割いてくれている」という事実に対して、「ありがとうございます」という感謝の気持ちを伝えましょう。
そして、相手の話を遮ったり、言い訳をしたりせず、まずは最後まで真摯に耳を傾けることが大切です。
2. 感情的にならず、事実と意見を切り分ける
ネガティブなフィードバックを受けると、ついカッとなったり、落ち込んだりしがちです。しかし、そこで感情的になってしまうと、せっかくの成長の機会を逃してしまいます。
大切なのは、フィードバックの内容を「事実」と「(相手の)意見・解釈」に切り分けて冷静に受け止めることです。
- 事実: 「報告書の提出が締め切りを3時間過ぎた」
- 相手の意見/解釈: 「時間にルーズだと思われたかもしれない」
人格を否定されたわけではなく、あくまで「特定の行動」に対する指摘であると捉えましょう。まずは「事実」として何が起こったのかを客観的に認識することが重要です。
3. 不明点は具体的に質問し、認識のズレをなくす
フィードバックの内容で曖昧な点や納得できない点があれば、そのままにせず、具体的に質問しましょう。
- 「『もっと主体的に』とのことですが、具体的にどのような行動を期待されていますでしょうか?」
- 「〇〇の点でご迷惑をおかけしたとのことですが、どのような影響があったか、もう少し詳しく教えていただけますか?」
質問することで、相手が伝えたかった意図を正確に理解でき、お互いの認識のズレを防ぐことができます。
4. 次のアクションプランを考え、ポジティブに締めくくる
フィードバックを受けっぱなしで終わらせては意味がありません。指摘された内容を元に、「次に何をすべきか」という具体的なアクションプランを考え、それを相手に伝えましょう。
- 「ご指摘ありがとうございます。今後は、〇〇という点を意識して業務に取り組みます。」
- 「次回の報告書では、〇〇という改善策を試してみようと思います。」
前向きな姿勢を示すことで、相手は「伝えて良かった」と感じ、今後もあなたをサポートしてくれるでしょう。
【実践用チェックリスト】フィードバックの受け方
▢ 最初に「ありがとうございます」と感謝を伝えたか?
▢ 途中で話を遮らず、最後まで傾聴できたか?
▢ 感情的にならず、事実と意見を分けて考えられたか?
▢ 分からない点は、具体的に質問して確認したか?
▢ 次の具体的な行動(アクションプラン)を考え、伝えられたか?
やってはいけない!信頼を損なうフィードバックのNG例
良かれと思っていても、やり方を間違えると逆効果になります。ここでは、絶対に避けるべきNG例を紹介します。
NG例1:大勢の前で指摘する
他のメンバーがいる前でネガティブなフィードバックをすると、相手は羞恥心を感じ、プライドを深く傷つけられます。指摘の内容がどれだけ正しくても、素直に受け入れることは難しいでしょう。フィードバック、特にネガティブなものは、必ず1対1の場で、他の人に聞かれないように配慮しましょう。
NG例2:抽象的で感情的な表現を使う
- 「もっと主体的に動いてよ」
- 「君のやる気が感じられない」
- 「常識で考えれば分かるでしょ」
このような抽象的で感情的な言葉は、相手に何も伝わりません。何をどう改善すれば良いのか分からず、ただ人格を否定されたと感じるだけです。必ずSBIモデルのように、具体的な「事実」と「行動」をベースに伝えましょう。
NG例3:過去の話を何度も蒸し返す
一度フィードバックして改善された、あるいは解決した過去のミスを、何かあるたびに「あの時もそうだったけど…」と蒸し返すのはやめましょう。相手は「いつまで言われるんだ…」と辟易し、信頼関係を大きく損ないます。フィードバックは常に「今」と「未来」に焦点を当てましょう。
NG例4:人格を否定するような言い方
- 「だから君はダメなんだ」
- 「〇〇さんは本当に仕事ができないね」
これはフィードバックではなく、単なる誹謗中傷です。相手の存在そのものを否定するような発言は、モチベーションを完全に破壊し、ハラスメントにもなり得ます。指摘するのは、あくまで「人格」ではなく「行動」です。
【Q&A】フィードバックに関するよくある質問
Q. ネガティブなフィードバックをどうしても受け入れられない場合は?
A. まずは、なぜ受け入れられないのか、自分の感情を分析してみましょう。「図星で悔しい」「相手の言い方に納得がいかない」「事実誤認がある」など、理由は様々です。
感情的にならずに一晩置き、冷静になってから再度内容を吟味してみてください。それでも納得できない場合は、フィードバックをくれた相手に「この点について、私は〇〇と考えているのですが、認識が違うでしょうか?」と、自分の考えを丁寧に伝えて対話してみましょう。
Q. フィードバックするのが苦手な性格なのですが、どうすればいいですか?
A. 「嫌われたくない」「相手を傷つけたくない」という気持ちは、とても自然なものです。まずは、ポジティブフィードバックから始めることをお勧めします。相手の良い点を見つけて褒める習慣をつけることで、フィードバックへの心理的なハードルが下がります。
ネガティブな内容を伝える際は、この記事で紹介した「SBIモデル」や「Iメッセージ」といった型(フレームワーク)に沿って伝えることを意識してみてください。型を使うことで、感情に流されず、冷静に事実を伝えやすくなります。
Q. リモートワークでのフィードバックで気をつけることはありますか?
A. リモートワーク環境では、対面よりもさらに丁寧なコミュニケーションが求められます。
テキストではなく声で伝える
チャットなどのテキストは、感情が伝わりにくく、冷たい印象を与えがちです。特にネガティブなフィードバックは、ビデオ通話など、顔が見える状態で声で直接伝えましょう。
時間を確保する
「ちょっといいですか?」と割り込むのではなく、「〇〇の件で15分ほどお話しする時間をいただけますか?」と、事前にアポイントを取りましょう。
雑談を交える
いきなり本題に入るのではなく、最初に少し雑談を挟んでアイスブレイクすることで、相手の緊張を和らげ、話しやすい雰囲気を作ることができます。
まとめ
本記事では、フィードバックの具体的な伝え方と受け取り方の技術を解説しました。フィードバックは、過去を責めるためのものではなく、相手の未来の成長を願う「贈り物」です。
伝える側は、客観的な事実に基づき対話を心がけること。受け取る側は、感謝の姿勢で耳を傾け、次の行動に繋げること。この両輪が揃って初めて、フィードバックは真価を発揮します。
フィードバックは、伝える側も受け取る側も訓練で上達できるスキルです。完璧を目指す必要はありません。まずは明日から、この記事のコツを一つでも実践してみてください。その小さな一歩が、あなたと組織を共に成長させる確かな力となります。