顧客セグメントとは?分け方の4つの変数を初心者向けに徹底解説!
目次
「新商品のキャンペーンを企画してほしいんだけど、まずはうちの顧客層を分析してくれるかな?」
「最近、お店の客足が伸び悩んでいて…。もっと効果的なチラシって作れないものか…。」
もしあなたが企業のマーケティング担当者や、お店を経営する事業主なら、一度はこのような課題に直面したことがあるのではないでしょうか。
モノや情報が溢れかえる現代において、すべての人に響く商品やサービスを作ることは、ほぼ不可能になりました。かつてのように、ただ良い製品を作ってテレビCMを流せば売れる、という時代は終わったのです。
「誰にでも」は「誰にも」刺さらない時代のマーケティング
考えてみてください。高級志向の60代女性と、節約を重視する20代の学生。この両方に同じメッセージで商品をアピールしても、おそらくどちらの心にも響かないでしょう。
「誰にでも」を狙ったメッセージは、結局のところ、輪郭がぼやけてしまい「誰の心にも」深く刺さらないのです。
そこで重要になるのが、今回のテーマである「顧客セグメント」という考え方です。
顧客セグメントとは、簡単に言えば「あなたのお客様を、特徴やニーズが似ているグループに分ける」こと。
この「分ける」という一手間が、あなたのビジネスに驚くほどの変化をもたらします。
顧客セグメントとは?
顧客セグメント(またはセグメンテーション)とは、市場や顧客全体を、特定の共通点を持つ小さなグループ(セグメント)に切り分けることを指します。
大きな一枚のホールケーキを、みんなが食べやすいように切り分ける作業を想像してみてください。あの作業こそがセグメンテーションです。性別、年齢、住んでいる地域、どんなことに興味があるか、といった様々な「切り口」で顧客を分類し、市場の全体像を把握しやすくするのです。
STP分析におけるセグメンテーションの役割
マーケティング戦略を考える上で非常に有名なフレームワークに「STP分析」というものがあります。顧客セグメントは、このSTP分析の出発点となる、最も重要なステップです。
S (Segmentation):セグメンテーション
市場や顧客をグループ分けする。(市場の地図を作る)
T (Targeting):ターゲティング
分けたグループの中から、自社が狙うべきグループを決める。(地図の中から目的地を決める)
P (Positioning):ポジショニング
狙うと決めたグループ(市場)において、競合と差別化できる自社の立ち位置を明確にする。(目的地でどう戦うか作戦を立てる)
このように、セグメンテーションは、効果的なマーケティング戦略を立てるための最初の「地図作り」にあたる、非常に重要なプロセスなのです。
ターゲットやペルソナとの違いは?
セグメントとよく混同されがちな言葉に「ターゲット」と「ペルソナ」があります。これらの違いを理解しておくと、議論がスムーズに進みます。
| 項目 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| セグメント | 市場や顧客を切り分けた「グループ(集団)」 | 「都内在住の30代女性、健康志向でオーガニック食品に関心が高い層」 |
| ターゲット | セグメントの中から自社が狙うと決めた「グループ」 | 上記のセグメントを、新商品のメインターゲットとして設定する |
| ペルソナ | ターゲットを代表する「架空の具体的な顧客像」 | 「佐藤愛、32歳、IT企業勤務。趣味はヨガで、週末はオーガニックスーパーで買い物をする…」 |
つまり、セグメント(市場を分ける)→ ターゲット(狙う市場を決める)→ ペルソナ(顧客を具体化する)という流れで、どんどん対象を絞り込んでいくイメージです
顧客セグメントで得られる3つの大きなメリット
なぜ、わざわざ顧客を分ける必要があるのでしょうか?それには、主に3つの大きなメリットがあります。
1. マーケティング施策の精度が劇的に向上する
特定のグループに狙いを定めることで、「誰に」「何を」「どのように」伝えれば響くのかが明確になります。結果として、広告のキャッチコピー、キャンペーンの内容、アプローチの方法など、あらゆる施策の精度が格段にアップします。
2. 顧客満足度(LTV)が高まる
顧客一人ひとりのニーズをより深く理解し、それに合った商品やサービスを提供できるようになります。顧客は「自分のことを分かってくれている」と感じ、満足度が高まります。これは、長期的にあなたのビジネスを支えてくれるファン(リピーター)を育てることにも繋がります。
3. 無駄なコストを削減し、利益を最大化できる
反応の薄い層に広告費や労力を費やす必要がなくなります。最も購買意欲の高い、有望な顧客グループにリソースを集中投下できるため、費用対効果(ROI)が最大化され、ビジネスの成長を加速させることができるのです。
この記事では、マーケティングの知識がまだ少ない初心者の方でも、顧客セグメントの基本から具体的な実践方法、さらには成功事例までを網羅的に理解し、明日から自社のビジネスに活かせるよう、丁寧に解説していきます。ぜひ最後までお付き合いください。
【4つの変数】顧客セグメントの代表的な分け方
では、具体的にどのような「切り口」で顧客を分けていけば良いのでしょうか。代表的な変数(軸)として、以下の4つがよく用いられます。
これらの変数をパズルのように組み合わせることで、より立体的でリアルな顧客像が見えてきます。
①地理的変数(ジオグラフィック変数)
これは、顧客がどこにいるかという地理的な情報に基づいた分け方です。シンプルで分かりやすく、特に実店舗を持つビジネスでは欠かせない変数です。
変数の例
- 国、都道府県、市区町村
- 気候(温暖、寒冷など)
- 人口密度(都市部、郊外、地方など)
- 文化、宗教
- 店舗からの距離(例:半径5km圏内)
【身近な例】
飲食店が「店舗から徒歩10分圏内のオフィスワーカー向け」にランチのチラシを配布するケースなどがこれにあたります。
②人口動態変数(デモグラフィック変数)
これは、顧客がどのような人かという客観的な基本情報に基づいた分け方です。公的な統計データなども活用しやすく、多くの企業で利用されています。
変数の例
- 年齢(10代、20代、30代など)
- 性別
- 家族構成(独身、夫婦のみ、子供ありなど)
- 所得、学歴、職業
【身近な例】
アパレルブランドが「20代前半の女性」向けにトレンド感の強い商品を展開したり、生命保険会社が「子供が生まれたばかりの30代夫婦」向けの保険商品を提案したりするケースです。
③心理的変数(サイコグラフィック変数)
これは、顧客が何を考えているかという価値観やライフスタイルなど、内面的な要素に基づいた分け方です。アンケートやインタビューなどで深掘りする必要がありますが、顧客の購買動機に直結するため非常に重要です。
変数の例
- ライフスタイル(アクティブ、インドア、健康志向など)
- 価値観(エコ、ステータス、伝統を重んじるなど)
- 性格(社交的、保守的、革新的など)
- 購買動機(価格重視、品質重視、デザイン重視など)
【身近な例】
自動車メーカーが「環境への意識が高く、エコな暮らしを志向する層」に向けて電気自動車(EV)をアピールするケースなどが該当します。
④行動変数(ビヘイビアル変数)
これは、顧客がどのように行動したかという、商品やサービスに対する実際の行動履歴に基づいた分け方です。Webサイトのアクセス解析や購買データなどから分析できるため、近年特に注目されています。
変数の例
- 購買履歴、購買頻度、購買金額
- 利用している曜日や時間帯
- Webサイトの閲覧履歴
- 製品知識のレベル(初心者、ヘビーユーザーなど)
- 求めるベネフィット(便益)(価格、品質、サポート、利便性など)
【身近な例】
ECサイトが「過去1ヶ月以内に購入したが、その後訪問がない顧客」に対して、リピートを促すクーポンメールを送るケースです。
【5ステップ】顧客セグメントの具体的なやり方
顧客セグメントの基本がわかったところで、いよいよ実践です。以下の5つのステップに沿って進めれば、誰でも顧客セグメント分析を行うことができます。
STEP1:セグメンテーションの目的を明確にする
まず最初に、「何のために顧客を分けるのか?」という目的をはっきりさせましょう。目的が曖昧なまま分析を始めても、ただ分類して終わってしまい、次のアクションに繋がりません。
目的の例
- 新商品のターゲットを見つけたい
- リピート購入してくれる優良顧客を増やしたい
- 休眠顧客を掘り起こしたい
- 広告の費用対効果を高めたい
STEP2:顧客データを収集・分析する
次に、目的を達成するために必要な顧客データを集めます。社内に眠っているデータを最大限活用しましょう。
収集するデータの種類と具体例
| データ種別 | 具体例 |
|---|---|
| 定量データ(数値で測れる客観的なデータ) | ・顧客管理システム(CRM)の購買データ(年齢、性別、購入日、金額など) ・Webサイトのアクセス解析データ(Google Analyticsなど) ・アンケート調査の回答結果(選択式) |
| 定性データ(数値化しにくい主観的なデータ) | ・営業担当者や販売スタッフからのヒアリング内容 ・コールセンターへの問い合わせ記録やお客様の声 ・SNS上の口コミやレビュー ・アンケート調査の自由記述欄 |
STEP3:セグメンテーションの軸(変数)を決める
STEP2で集めたデータを元に、STEP1で設定した目的に合わせて、どの変数(軸)で顧客を切り分けるかを決めます。
例えば、「リピート顧客を増やしたい」という目的であれば、「購入頻度」や「累計購入金額」(行動変数)を軸にするのが効果的でしょう。「若者向けの新商品を開発したい」のであれば、「年齢」(人口動態変数)や「ライフスタイル」(心理的変数)が重要な軸になります。
STEP4:各セグメントを評価する(4Rの原則)
切り分けたセグメントが、マーケティングの対象として本当に有効かどうかを評価します。このとき役立つのが「4Rの原則」というフレームワークです。
Rank(優先順位づけ)
各セグメントを、重要度に応じてランク付けできるか?
Realistic(規模の有効性)
そのセグメントは、ビジネスとして成り立つ十分な市場規模があるか?
Reach(到達可能性)
そのセグメントの顧客に、商品やメッセージを的確に届けられるか?
Response(測定可能性)
そのセグメントの反応(購買率など)を測定し、施策の効果を分析できるか?
これらの基準を満たさないセグメントは、たとえ魅力的でもアプローチが難しいため、ターゲットからは外す判断も必要です。
STEP5:ターゲットセグメントを選定し、ペルソナを作成する
4Rの原則で評価した結果、最も自社にとって魅力的で、アプローチ可能だと判断したセグメントをターゲットとして選びます。
そして最後に、そのターゲットセグメントをより深く理解するために、具体的な人物像であるペルソナを作成します。ペルソナを作ることで、チーム内での顧客イメージが統一され、より顧客目線に立った施策を考えられるようになります。
【BtoB・BtoC別】顧客セグメントの成功事例
理論だけではイメージが湧きにくいかもしれません。ここでは、私たちの身近にある企業の成功事例を見ていきましょう。
BtoCの成功事例:ユニクロの巧みな顧客分類戦略
「LifeWear」というコンセプトを掲げるユニクロは、顧客セグメントの巧みな活用事例として有名です。
一般的なアパレルブランドが「10代女性向け」「30代ビジネスマン向け」といった年齢や性別(人口動態変数)でセグメントするのに対し、ユニクロは顧客のライフスタイルや価値観(心理的変数)を重視しています。
具体例
「トレンドを追いかけるのではなく、高品質でベーシックな服を長く着たい」と考える層。
このセグメントは、年齢や性別を問いません。10代の学生も、40代の主婦も、70代のシニアもターゲットになり得ます。特定の年齢層に絞るのではなく、「あらゆる人の生活を豊かにする究極の普段着」という価値観に共感する大きな顧客層を捉えることで、世界的な成功を収めているのです。
BtoBの成功事例:クラウド会計ソフトのセグメント別アプローチ
同じ製品でも、ターゲットとするセグメントによって抱える課題やニーズが異なるため、アプローチを変える必要があります。
| 項目 | 中小企業向けセグメント | 大企業向けセグメント |
|---|---|---|
| 主なニーズ・課題 | ・導入コストを抑えたい ・すぐに使い始めたい ・経理の専門家がいない | ・高度なセキュリティが必須 ・他の社内システムと連携させたい ・内部統制や監査に対応したい |
| アピールする価値 | 手軽さ | 信頼性・拡張性 |
| 具体的な訴求メッセージ | 「低コストで簡単に導入可能」 「専門知識がなくても直感的に使える」 | 「金融機関レベルの強固なセキュリティ」 「柔軟なAPI連携機能」 「内部統制に対応した権限管理」 |
このように、セグメントごとに抱える課題やニーズが異なるため、それに合わせた製品の機能紹介や営業アプローチを行うことで、契約率を高めています。
【身近な例】コンビニエンスストアの顧客セグメント
最も身近な顧客セグメントの実践例がコンビニエンスストアです。コンビニは立地(地理的変数)と時間帯(行動変数)を巧みに組み合わせています。
オフィス街の店舗
住宅街の店舗
このように、同じコンビニでも、セグメントに応じて品揃えやレイアウトを最適化することで、売上の最大化を図っているのです。
顧客セグメントで失敗しないための3つの注意点
顧客セグメントは強力なツールですが、使い方を間違えると効果が出ないばかりか、かえって混乱を招くこともあります。ここでは、よくある失敗例とその対策を見ていきましょう。
失敗例1:セグメントが細かすぎる/大雑把すぎる
意気込むあまり、非常に細かい条件でセグメントを分けすぎてしまうケースです。
具体例
「神奈川県在住で、年収1000万円以上、34歳で子供が2人いて、週末はキャンプに行く人」
これでは対象者がほとんど存在せず、ビジネスとして成り立ちません(規模の有効性がない)。
逆に、「20代の男性」のように大雑把すぎると、その中にいる人々のニーズが多様すぎて、結局どんなメッセージを発信すれば良いのか分からなくなってしまいます。
対策
「そのセグメントに属する人には、同じようなマーケティングアプローチが有効か?」という視点で、意味のある違いがある単位で区切るようにしましょう。
失敗例2:データを無視して思い込みで分けてしまう
「うちの顧客はきっとこうだろう」「昔からこう言われているから」といった、担当者の勘や思い込みだけでセグメント分けをしてしまうケースです。
市場や顧客のニーズは常に変化しています。古い常識や希望的観測で判断すると、現実とズレたターゲット設定をしてしまい、誰にも響かない施策を打ち続けることになります。
対策
必ずアンケートや購買データ、アクセス解析といった客観的なデータに基づいてセグメント分けを行いましょう。データは時に、私たちが気づかなかった意外な顧客像を教えてくれます。
失敗例3:セグメント分けしただけで満足してしまう
最も多い失敗がこれです。時間をかけてきれいに顧客を分類し、立派な分析レポートを作成したことで満足してしまい、その後のアクションに繋がらないケースです。
対策
STP分析の項目でも触れたように、セグメンテーションはあくまで「手段」であり、目的ではありません。「分けた後、どのセグメントをターゲットとし、どのようなアプローチをするか」までをセットで考えることが重要です。セグメント分けは、マーケティング戦略のスタートラインに立ったに過ぎないのです。
【Q&A】顧客セグメントに関するよるくある質問
最後に、顧客セグメントに関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 顧客セグメント分析に使えるツールはありますか?
A. あります。以下のようなツールがよく利用されます。
| ツール分類 | 主な機能と分析できること | 具体的なツール例 |
|---|---|---|
| Web解析ツール | Webサイト訪問者の年齢、性別、地域、閲覧ページ、流入経路などの行動データを分析できます。 | Google Analytics |
| CRM / SFA | 顧客の基本情報や購買履歴、問い合わせ履歴などを一元管理し、優良顧客の属性などを分析できます。 | Salesforce, HubSpot |
| アンケートツール | 顧客の価値観、ライフスタイル、満足度といった心理的なデータをアンケート形式で直接収集できます。 | Googleフォーム, SurveyMonkey |
Q. BtoBとBtoCでセグメントの分け方に違いはありますか?
A. 基本的な考え方は同じですが、利用する変数に違いがあります。
【BtoC】
個人が顧客なので、年齢・性別といった個人属性やライフスタイルなどの心理的変数が重要になります。
【BtoB】
企業(組織)が顧客なので、従業員数・業種・売上高といった組織の属性や、担当者の役職、決裁プロセスといった組織特有の変数が重要になります。
Q. 十分な顧客データがない場合はどうすれば良いですか?
A. 特に事業を始めたばかりの頃は、十分なデータがないことも多いでしょう。その場合は、以下のような方法からスモールスタートしてみるのがおすすめです。
既存顧客へのヒアリング
数人でも構いません。直接お客様に「なぜうちの商品を選んでくれたのか」「どんな点に満足しているか」などを聞いてみましょう。貴重なヒントが得られます。
簡単なアンケートの実施
店舗やWebサイトで、簡単なアンケートに協力してもらうのも良い方法です。
公開されている統計データの活用
政府や調査会社が公開している統計データから、自社の商圏の人口構成やライフスタイルの傾向などを掴むことができます。
まとめ
本記事では、マーケティング効果を最大化する「顧客セグメント」を解説しました。顧客をニーズや属性が似たグループに分けることで、「誰にでも」ではなく特定の層に深く響くアプローチが可能になり、売上向上に繋がります。
分析には年齢などの「人口動態変数」やライフスタイルなどの「心理的変数」といった4つの軸を活用し、目的設定からターゲット選定まで5つのステップで実践します。成功の鍵は、データに基づき客観的に分類し、その後の具体的な施策まで設計することです。
この記事を参考に、まずは自社のお客様がどんなグループに分けられるか、簡単な分析から第一歩を踏み出してみてください。