見て真似るだけ!クレーム再発防止「5つのステップ」と原因分析の具体例を徹底解説
目次
「また同じクレームが…」「場当たり的な対応から抜け出せない」。そんな悩みを抱えていませんか?繰り返されるクレームは、顧客の信頼を失い、従業員を疲弊させる大きな問題です。
しかし、クレームは原因を正しく分析し、対策を仕組み化すれば、サービス品質を向上させる「資産」に変えることができます。
本記事では、根本原因を特定する具体的な分析手法から、すぐに使える報告書のポイントまでを徹底解説します。二度と同じ失敗を繰り返さないための、明日からできる具体的なアクションが見つかるはずです。
クレームの再発防止によるメリット
クレームが発生した際、まず謝罪し、目の前の問題を解決することはもちろん重要です。しかし、それだけで終わらせていては、いずれ同じ問題が形を変えて再び発生するでしょう。クレームの再発防止に本気で取り組むことは、企業にとって以下の3つの大きなメリットをもたらします。
1. 顧客離れと企業信用の失墜を防ぐ
一度クレームを入れた顧客が最も失望するのは、その問題が改善されず、再び同じ不快な思いをすることです。不満を抱いた顧客の多くは、何も言わずに静かに去っていきます。再発防止に取り組む姿勢を示すことは、顧客の「声」に真摯に耳を傾けている証であり、誠実な企業であるという信頼を醸成します。長期的に見れば、顧客満足度の向上とロイヤルカスタマーの育成に直結し、企業の安定した成長基盤となるのです。
2. 無駄な対応コストと時間の削減
同じクレームが繰り返し発生するということは、その都度、顧客への謝罪、状況確認、代替品の発送、返金処理といった対応に時間と人件費(コスト)を費やしているということです。根本的な原因を特定し、恒久的な対策を講じることで、これらの無駄な対応コストを大幅に削減できます。創出されたリソースを、新商品開発やサービス改善といった、より生産的な業務に振り分けることが可能になります。
3. 従業員の精神的負担を軽減し、モチベーションを維持する
クレーム対応は、従業員にとって精神的に大きな負担となる業務です。特に、何度も同じ内容のクレームに対応しなければならない状況は、「なぜ改善されないのか」という会社への不満や無力感につながり、モチベーションの低下を招きます。組織として再発防止に本気で取り組み、成功体験を共有することで、従業員は自社のサービスに自信と誇りを持ち、前向きに業務に取り組むことができるようになります。
【5ステップで実践】クレーム再発防止の具体的な手順
それでは、具体的にどのような手順でクレームの再発防止を進めていけばよいのでしょうか。ここでは、誰でも実践できるよう、5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:クレーム情報の正確な記録と一元管理
再発防止の第一歩は、発生した事象を正確に把握することから始まります。担当者の記憶だけに頼るのではなく、必ず客観的な事実を記録として残しましょう。
| 記録項目 | 記録すべき内容 |
|---|---|
| いつ(発生日時) | クレームが発生した正確な日時を記録します。 |
| どこで(発生場所) | どの店舗、どのウェブページ、どの製品で発生したのかを具体的に記録します。 |
| 誰が(顧客情報・担当者) | 顧客の基本情報(可能な範囲で)と、初期対応を行った従業員名を記録します。 |
| 何を(クレーム内容) | 顧客が何を問題としているのか、具体的な内容を客観的に記録します。 |
| どのように(経緯・初期対応) | 問題発生の経緯と、どのような初期対応を行ったかを時系列で記録します。 |
これらの情報をExcelやスプレッドシート、あるいは顧客管理システム(CRM)などを用いて一元管理し、関係者がいつでも閲覧できる状態にしておくことが重要です。フォーマットを統一することで、後の分析が格段に行いやすくなります。
ステップ2:根本原因の分析(「なぜなぜ分析」の活用)
記録された情報をもとに、「なぜそのクレームが発生したのか」という原因を究明します。ここで重要なのは、表面的な原因で満足しないことです。「担当者の確認ミス」で終わらせてしまっては、また別の担当者が同じミスを繰り返すだけです。
ここで有効なのが、トヨタ生産方式で有名な「なぜなぜ分析」です。一つの事象に対して「なぜ?」を5回繰り返すことで、問題の背後にある本質的な原因(根本原因)にたどり着くことができます。具体的な進め方は後ほど詳しく解説します。
ステップ3:具体的かつ効果的な再発防止策の立案
根本原因が特定できたら、それを取り除くための具体的な対策を立案します。対策を立てる際は、以下のポイントを意識しましょう。
具体的であること
「注意する」「意識を高める」といった精神論ではなく、「誰が」「いつまでに」「何を」「どのように」行うのかを明確にします。
実行可能であること
理想論ではなく、現場の状況やリソースを考慮した現実的な対策を立てます。
恒久的であること
その場しのぎの対策ではなく、将来にわたって問題の再発を防ぐ「仕組み」につながる対策を考えます。例えば、「担当者が注意する」ではなく、「チェックリストを作成し、ダブルチェックを義務化する」といった対策です。
ステップ4:対策の実行(Plan-Do-See)と関係者への周知徹底
立案した対策は、速やかに実行に移します。計画(Plan)を実行(Do)し、その結果どうなったかを評価(See/Check)し、改善(Action)につなげる「PDCAサイクル」を回す意識が重要です。
また、対策は一部の関係者だけで実行しても意味がありません。関係部署の全員に「なぜこの対策を行うのか」という背景(原因)と、「具体的に何をするのか」という内容を明確に伝え、周知徹底することが不可欠です。アルバイトやパートスタッフにも理解できるような、分かりやすい言葉で説明しましょう。
ステップ5:ナレッジの蓄積と標準化(マニュアル更新)
実行した対策とその結果は、必ず記録として残し、組織のナレッジ(知識)として蓄積します。そして、効果が実証された対策は、業務マニュアルや手順書に反映させ、誰が担当しても同じ品質で業務が遂行できる「標準化」を目指します。
クレーム対応事例とその再発防止策をまとめた事例集を作成し、社内研修などで共有するのも非常に効果的です。これにより、組織全体の対応レベルが向上していきます。
【実践編】クレームの根本原因を特定する「なぜなぜ分析」の進め方
ステップ2でご紹介した「なぜなぜ分析」は、クレームの根本原因を特定するための非常に有効なフレームワークです。ここでは、その具体的な進め方と注意点を解説します。
なぜなぜ分析とは?
なぜなぜ分析とは、発生した問題に対して「なぜ?」という問いを繰り返し、真の原因を探っていく思考法です。通常、5回繰り返すのが目安とされていますが、根本原因にたどり着くまで問いを続けることが重要です。表面的な原因ではなく、その背後にある「仕組み」や「ルール」の問題に光を当てることを目的とします。
具体的な分析事例(例:ECサイトの誤配送)
問題:お客様から「注文と違う商品が届いた」というクレームが発生した。
なぜなぜ分析の具体例
| 段階 | なぜ?(問題) | 答え(直接的な原因) |
|---|---|---|
| なぜ① | なぜ違う商品が届いたのか? | ピッキング担当者が、商品Aと間違えて類似商品Bを梱包してしまったから。 |
| なぜ② | なぜ担当者は商品を間違えてしまったのか? | 商品Aと商品Bの保管棚が隣り合っており、パッケージも酷似していたから。 |
| なぜ③ | なぜパッケージが酷似した商品が隣り合って置かれていたのか? | 商品の保管場所を管理するルールが明確でなく、新商品を空いている棚に場当たり的に配置していたから。 |
| なぜ④ | なぜ保管場所の管理ルールが明確でなかったのか? | 事業の急拡大に伴い商品数が急増し、既存の管理方法が追いついていなかったから。 |
| なぜ⑤ | なぜ管理方法の見直しがされていなかったのか? | 現場は日々の出荷作業に追われ、根本的な業務改善にまで手が回っていなかった。また、管理者が現場の課題を吸い上げる仕組みがなかったから。 |
【根本原因】
現場の課題を吸い上げて業務改善に繋げる仕組みがなかったこと。
【対策】
- 短期的対策: 類似商品の保管場所を物理的に離す。商品の棚に写真付きの大きなラベルを貼る。
- 中長期的対策(根本対策): 商品バーコードと棚のロケーションコードを紐づけ、ハンディスキャナによる検品システムを導入する。週に一度、現場スタッフと管理者による「業務改善ミーティング」を定例開催する。
このように、「担当者のミス」で終わらせず、「仕組みの問題」まで掘り下げることで、初めて効果的な再発防止策が見えてきます。
分析を成功させるための3つの注意点
1. 個人攻撃にしない
「なぜなぜ分析」の目的は、犯人探しではありません。「なぜ〇〇さんはミスをしたのか?」ではなく、「なぜミスが起きてしまう仕組みになっていたのか?」という視点で、事実に基づいて分析を進めましょう。
2. 思い込みで進めない
「たぶんこうだろう」という憶測ではなく、必ず現場を確認したり、関係者にヒアリングしたりして、事実(ファクト)ベースで「なぜ」を繰り返します。
3. 複数人で実施する
一人では視点が偏りがちです。現場の担当者、管理者など、異なる立場の人と複数人で意見を出し合いながら分析することで、より多角的で本質的な原因にたどり着きやすくなります。
効果的なクレーム再発防止報告書の書き方【テンプレート項目例】
分析した内容と決定した対策は、必ず「報告書」として文書化し、関係者間で共有することが重要です。これにより、組織としての正式な決定事項となり、対策の実行責任が明確になります。
報告書に必ず含めるべき7つの必須項目
以下に、誰が読んでも状況と対策が理解できる報告書のテンプレート項目例をご紹介します。
報告書の必須項目と記載例
| 項目 | 記載内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 1. 発生日時 | クレームが発生した正確な日時を記載。 | 2025年8月18日(月) 14:00頃 |
| 2. 発生内容(事実) | 何が起きたのかを5W1Hで客観的に記述。 | ECサイトで購入された顧客(会員番号: XXX)に対し、注文商品Aと異なる商品Bを発送。同日13:50頃、顧客より電話にて指摘あり。 |
| 3. 直接的な原因 | 問題を引き起こした直接の事象を記述。 | ピッキング担当者が、商品Aと類似したパッケージの商品Bを誤ってピッキングしたこと。 |
| 4. 根本的な原因(背景) | 「なぜなぜ分析」などで特定した、問題の背景にある仕組みやルールの課題を記述。 | ・類似商品の保管場所が隣接していた。 ・目視のみの確認で、機械的な検品プロセスがなかった。 ・ロケーション管理ルールが未整備であった。 |
| 5. 暫定対策 | すでに行った応急処置や、当面の対策を記述。 | 当該顧客へ謝罪の上、正しい商品を即日再発送。誤送付品は着払いにて返送手配済み。 |
| 6. 恒久的な再発防止策 | 「誰が」「いつまでに」「何をするか」を明確に記述。 | ① 類似商品の保管場所を離す。(担当:山田、期限:8/19) ② 識別ラベルを設置する。(担当:倉庫チーム、期限:8/31) ③ ハンディスキャナ導入を検討する。(担当:鈴木、期限:9/30) |
| 7. 担当部署・作成者 | この報告書と対策の責任者を明確にする。 | 品質管理部 担当:佐藤 |
誰が読んでも状況がわかるように書くコツ
- 専門用語や社内用語は避け、誰が読んでも理解できる平易な言葉を使う。
- 時系列を意識し、事実を客観的に記述する。個人の感想や憶測は含めない。
- 図や写真を活用すると、より直感的に状況が伝わりやすくなる。
組織全体で取り組む!クレームを「仕組み」で防ぐ方法
クレームの再発防止は、一人の担当者の努力だけで成し遂げられるものではありません。組織全体で取り組み、文化として根付かせるための「仕組み作り」が不可欠です。
担当者任せにしない!全社でクレーム情報を共有する文化作り
クレーム情報は、対応した担当者や部署の中だけで留めてはいけません。顧客の声は、商品開発、マーケティング、営業など、あらゆる部署にとって貴重な改善のヒントです。
前述したクレーム報告書を、関係部署が閲覧できる社内ポータルやチャットツールで共有するルールを作りましょう。これにより、「自分の部署の業務が、お客様にこんな影響を与えているのか」という気づきが生まれ、部門を越えた連携や改善活動につながります。
定期的な品質向上ミーティングの開催
月に一度、あるいは週に一度、「品質向上ミーティング」を定例開催することをおすすめします。この会議では、発生したクレーム事例と再発防止策の進捗状況を報告し合います。
重要なのは、単なる報告会で終わらせないことです。「もっと良い対策はないか」「この仕組みは他の業務にも応用できないか」といった前向きな議論を行うことで、継続的な改善サイクルが回り始めます。
クレームを「良い情報」として評価する制度作り
多くの場合、クレームは「悪い報告」と捉えられがちで、報告すること自体を躊躇してしまう従業員も少なくありません。この文化を変える必要があります。
顧客の不満の声をしっかりと受け止め、改善につなげた従業員やチームを積極的に評価する制度を作りましょう。「クレームを報告してくれてありがとう」「おかげでサービスが良くなった」というメッセージを経営層が発信し続けることで、クレームは「隠すべきもの」から「組織の成長に必要な良い情報」へと変わっていきます。
【Q&A】クレーム再発防止に関するよくある質問
Q1. 小さなクレームや意見もすべて記録すべきですか?
A1. 原則としてすべて記録すべきです。
一件一件は些細なことに思えても、同じような意見が複数集まることで、サービスにおける重要な課題が浮かび上がってくることがあります。「お客様の声」としてすべて記録・集計し、定期的に見返すことで、大きな問題になる前に対策を打つ「予防」につながります。
Q2. 対策を実行しても同じクレームが再発する場合はどうすればいいですか?
A2. 原因分析が不十分であるか、対策が的確でない可能性があります。
もう一度「なぜなぜ分析」に戻り、根本原因の特定からやり直してみてください。もしかしたら、さらに深い階層に本当の原因が隠れているかもしれません。また、立案した対策が「精神論」になっていないか、「実行が形骸化」していないかも見直す必要があります。現場の担当者にヒアリングし、対策が正しく機能しているかを確認しましょう。
Q3. クレームをくれた顧客への特別なアフターフォローは必要ですか?
A3. 必須ではありませんが、行うことで顧客満足度を大きく向上させる可能性があります。
問題が解決した後、しばらく経ってから「その後のご様子はいかがでしょうか」と一本連絡を入れるだけでも、顧客は「自分のことを気にかけてくれている」と感じ、企業のファンになってくれることさえあります。特に、企業の不手際が原因で大きな迷惑をかけた場合には、再発防止策が完了した段階でその旨を報告することも、信頼回復に非常に効果的です。
まとめ
クレーム対応を、つらい後処理で終わらせていませんか?本記事で解説した通り、お客様の声は組織を成長させる貴重なフィードバックです。
発生した事象を正確に記録・分析し、根本原因に対して効果的な対策を立て、組織全体で共有する。このサイクルを粘り強く回すことで、クレームはコストから「資産」へと変わります。
顧客からの信頼を勝ち取り、強い組織を作るため、この記事を参考に具体的な一歩を踏み出してください。