【これだけでOK】カスタマーサクセスのKPI設定、5つのステップで完全理解!
目次
カスタマーサクセスは、SaaSビジネスの成長に不可欠な要素ですが、「活動の成果をどう測れば良いか」と悩む担当者は少なくありません。感覚的な活動評価から脱却し、事業への貢献度を可視化するには、データに基づく客観的な指標、すなわちKPIの設定が不可欠です。
本記事では、SaaSで用いられる主要KPIから、具体的な設定手順、事業フェーズ別の活用法までを網羅的に解説します。自社に最適なKPIを見つけ、成果に繋がる戦略的なカスタマーサクセスを実現しましょう。
カスタマーサクセスにKPIを設定する3つのメリット
LTV(顧客生涯価値)の最大化に貢献する
SaaSに代表されるサブスクリプションモデルでは、一度製品を販売して終わりではなく、顧客がサービスを継続的に利用し、成功体験を得て初めて、LTV(顧客生涯価値)が最大化されます。つまり、「顧客の成功(Customer Success)」こそが、自社の事業成長の鍵を握っているのです。
KPIは、この「顧客の成功」がどの程度達成されているかを客観的に示す指標です。KPIを正しく設定することで、顧客がどこでつまずいているのか、何に満足しているのかを正確に把握し、先回りしたサポートを提供できるようになります。
データに基づいた客観的な活動評価
「顧客のために一生懸命動いている」という熱意はもちろん重要ですが、それだけではビジネスとして活動を評価し、改善することは困難です。
KPIを設定することで、カスタマーサクセスチームの活動成果が具体的な数値で可視化されます。これにより、どの施策が効果的で、どの部分に課題があるのかを客観的に判断できるようになります。経営層への成果報告や、予算獲得のための説得力のある根拠としても、データに基づいたKPIは有効です。
チームの目標を明確にし、モチベーションを向上
明確なKPIは、チームメンバー全員が目指すべきゴールを共有するための共通言語となります。「今月はチャーンレートを1%未満に抑える」「オンボーディング完了率を80%まで引き上げる」といった具体的な目標があることで、各メンバーは日々の業務に優先順位をつけ、集中して取り組むことができます。
また、目標達成が数値で明確に示されることは、チームのモチベーション向上にも大きく貢献します。自分たちの活動が事業成長にどう貢献しているかを実感できる環境は、エンゲージメントの高い組織作りに繋がります。
【一覧】カスタマーサクセスの重要KPI
カスタマーサクセスのKPIは多岐にわたりますが、目的別に整理することで体系的な理解が可能です。ここでは、KPIを大きく4つの目的(リテンション、エンゲージメント、エクスパンション、アダプション)に分類し、それぞれの代表的な指標を解説します。
顧客の定着・継続率を示すKPI(リテンション)
リテンションは、顧客がサービスを継続して利用してくれるかを示す、カスタマーサクセスの根幹となる指標です。
| KPI指標 | 概要 | 計算式(例) |
|---|---|---|
| チャーンレート(解約率) | 顧客がサービスを解約した割合。ビジネスの健全性を示す最重要指標の一つ。 | チャーンレート(%)=前月末の総顧客数当月の解約顧客数×100 |
| リテンションレート(顧客維持率) | 顧客がサービスを継続利用している割合。チャーンレートと表裏一体の関係。 | リテンションレート(%)=100%−チャーンレート(%) |
| LTV(顧客生涯価値) | 一人の顧客が取引期間中にもたらす総利益。CS活動の投資対効果を測る指標。 | LTV=平均顧客単価×収益率×顧客継続期間 |
顧客満足度・ロイヤルティを示すKPI(エンゲージメント)
顧客がプロダクトや企業に対してどれだけ愛着を感じているかを示す指標です。解約の先行指標としても注目されます。
| KPI指標 | 概要 |
|---|---|
| NPS®(ネットプロモータースコア) | 「このサービスを友人に勧めますか?」という質問で顧客ロイヤルティを数値化。 |
| CSAT(顧客満足度スコア) | 特定の体験(サポート対応など)に対する短期的な満足度を測定。 |
| ヘルススコア | サービスの利用状況やサポートへの問い合わせ履歴など、複数のデータを組み合わせて顧客の状態を総合的にスコア化。解約の兆候を早期に検知するために利用される。 |
※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
収益貢献度を示すKPI(エクスパンション)
既存顧客からの売上をどれだけ拡大できたかを示す指標です。効率的な事業成長に不可欠です。
| KPI指標 | 概要 | 計算式(例) |
|---|---|---|
| アップセル/クロスセル率 | より上位プランへの移行(アップセル)や、関連サービスの追加契約(クロスセル)の割合。 | アップセル率(%)=全顧客数アップセルした顧客数×100 |
| NRR(売上継続率) | 既存顧客からの売上が前年同月比でどれだけ増減したかを示す。100%超えが理想。 | NRR(%)=前年同月のMRR(当月MRR+ExpansionMRR−DowngradeMRR−ChurnMRR)×100 |
| Expansion MRR(拡大MRR) | アップセルやクロスセルによって増加した月次経常収益。 |
サービス/プロダクトの活用度を示すKPI(アダプション)
顧客がサービスをどれだけ深く、広く活用しているかを示す指標です。顧客が価値を実感しているかを判断する材料になります。
| KPI指標 | 概要 |
|---|---|
| オンボーディング完了率 | 新規顧客が初期設定を終え、基本的な機能を使えるようになるまでのプロセスを完了した割合。 |
| 機能利用率・DAU/MAU | 特定の機能がどれだけ使われているか、また1日/1ヶ月あたりのアクティブユーザー数。 |
| セッション時間 | ユーザーが1回のアクセスでサービスを利用している時間。 |
【5ステップ】カスタマーサクセスKPIの具体的な設定手順
「重要指標は分かったけれど、自社に合ったKPIをどうやって設定すればいいの?」という疑問にお答えします。ここでは、架空のSaaS企業(プロジェクト管理ツール「Task-AI」を提供)を例に、具体的な5つのステップでKPI設定の手順を解説します。
ステップ1:KGI(最終目標)の明確化
まず最初に、カスタマーサクセス活動が最終的に何に貢献するのか、KGI(重要目標達成指標)を明確にします。KGIは、事業全体の目標と連動している必要があります。
例
事業全体のKGI「ARR(年間経常収益)を前年比150%にする」に対し、CS部門のKGIを「年間NRR(売上継続率)を120%に達成する」と設定します。
ステップ2:顧客フェーズの洗い出し
次に、顧客がサービスを契約してから価値を感じ、継続・拡大するまでの一連の体験(カスタマージャーニー)をフェーズに分解します。
例
1. 導入支援(Onboarding) → 2. 活用促進(Adoption) → 3. 価値拡大(Expansion) → 4. 契約更新・推奨(Renewal/Advocacy)
ステップ3:各フェーズにおける理想の顧客体験を定義する
各フェーズにおいて、顧客がどのような状態になっていれば「成功」と言えるのか、理想の顧客体験を具体的に定義します。
例
「導入支援フェーズ」の理想は、「契約後1週間以内に主要3機能(プロジェクト作成、タスク割り当て、チームメンバー招待)を完了し、ツールの基本的な価値を実感している状態」と定義します。
ステップ4:顧客体験を測定するためのKPI候補を洗い出す
ステップ3で定義した理想の顧客体験が実現できているかを、数値で測定するためのKPI候補をリストアップします。
例
「導入支援フェーズ」のKPI候補として、「オンボーディング完了率(契約後1週間以内)」「主要3機能の利用率」「初回ログインまでの時間」などを挙げます。
ステップ5:優先順位をつけ、具体的な目標数値を設定する
最後に、洗い出したKPI候補の中からKGIへのインパクトが最も大きいものを2~3個に絞り込み、優先順位をつけます。そして、「いつまでに」「どれくらい」達成するのか、具体的な目標数値を設定します。
例
最優先KPIを「オンボーディング完了率(契約後1週間以内)」とし、目標数値を「現状の60%から、次の四半期末までに80%に引き上げる」と具体的に設定します。
【事業フェーズ別】SaaS企業におけるKPI設定の具体例
すべての企業が同じKPIを追うべきではありません。企業の成長フェーズによって、注力すべき課題や目標は異なります。各フェーズで重視すべきKPIの例を表にまとめました。
| 事業フェーズ | 主な課題 | 重視すべきKPIの例 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 導入期(PMF達成前) | プロダクトの価値検証と市場への適合 | オンボーディング完了率、ヘルススコア | 顧客が初期段階でつまずくことなく、プロダクトの核となる価値を体験できているかを確認し、プロダクト改善に繋げる。 |
| 成長期 | 顧客基盤の拡大と定着 | チャーンレート、NPS® | 解約率を低減させて顧客基盤を安定させ、持続的な成長を実現する。顧客ロイヤルティを高め、ポジティブな口コミを創出する。 |
| 成熟期 | 既存顧客からの収益最大化 | LTV、NRR、アップセル/クロスセル率 | 既存顧客へのアップセル等を促進し、1顧客あたりの生涯価値を最大化する。事業が自律的に成長する状態(ネガティブチャーン)を目指す。 |
KPI設定でよくある間違いと対策
意欲的にKPIを設定したにもかかわらず、うまく機能しないケースも見られます。ここでは、よくある3つの間違いとその対策をご紹介します。
成果に繋がらない指標(Vanity Metric)を追ってしまう
一見すると良く見えますが、実際のビジネス成果には繋がらない指標を追ってしまうケースです。例えば、サービスの総登録ユーザー数などがこれにあたります。
対策
設定したKPIが「次のアクションに繋がるか?」という視点で確認しましょう。具体的な改善活動に結びつくアクショナブルメトリクス(実行可能な指標)、例えば「MAU(月間アクティブユーザー数)」などを重視することが重要です。
KPIの数が多すぎて管理できない
「あれもこれも重要だ」と考え、KPIを大量に設定してしまうと、モニタリングや分析の負荷が高まり、結局どれも中途半端になってしまいます。
対策
KPIツリーの考え方を取り入れ、KGI(最終目標)から逆算して、本当に重要なKPIを特定しましょう。チームで追うべきKPIは、常に3~5個程度に絞り込むのが理想です。
設定しただけで改善アクションに繋がらない
KPIを設定し、数値を可視化しただけで満足してしまうのは注意すべき点です。KPIは、あくまで現状を把握し、改善アクションを起こすためのツールです。
対策
KPIの定例レビューの場を設け、PDCAサイクルを回す仕組みを構築しましょう。例えば、週次で数値をチェックし、月次で原因を分析して翌月のアクションプランを立てる、といった運用ルールをチームで決めることが重要です。
【Q&A】カスタマーサクセスのKPIに関するよくある質問
Q. 適切な目標数値はどのように決めればよいですか?
A. 適切な目標数値を設定するには、主に以下の3つのアプローチがあります。単一のアプローチに頼るのではなく、これらを組み合わせ、自社の状況に合わせて納得感のある目標を設定することが重要です。
目標数値設定の3つのアプローチ
| アプローチ名 | 概要 | 主な情報源 |
|---|---|---|
| 1. ベンチマーク比較 | 業界水準や競合他社と比較して目標値を設定する手法。市場における自社の立ち位置を客観的に把握できます。 | ・業界レポート ・競合他社の公開情報(IR資料など) ・第三者機関の調査データ |
| 2. 過去実績ベース | 自社の過去のパフォーマンス実績に基づいて、現実的に達成可能かつ挑戦的な目標値を設定する手法。 | ・自社で蓄積した過去のKPIデータ ・過去の月次/四半期レポート ・チームのパフォーマンス実績 |
| 3. KGIからの逆算 | 事業全体の最終目標(KGI)を達成するために、必要な数値を論理的に算出して目標値を設定するトップダウンの手法。 | ・事業計画書 ・売上目標、利益計画 ・財務モデル |
Q. どのくらいの頻度でKPIを見直すべきですか?
A. KPIの種類や事業フェーズによって異なりますが、日々の活動成果を測る先行指標(オンボーディング進捗など)は日次や週次で、ビジネス全体の成果を示す遅行指標(チャーンレートなど)は月次や四半期で確認するのが一般的です。目標数値自体の見直しは、四半期や半期に一度、事業計画と合わせて行うのが良いでしょう。
Q. KPIを管理・可視化するおすすめのツールはありますか?
A. 顧客情報や利用状況を一元管理し、KPIを可視化するためには、専用ツールの導入が効果的です。代表的なツールには、カスタマーサクセスプラットフォーム(Gainsight, HiCustomerなど)、CRM/SFA(Salesforce, HubSpotなど)、BIツール(Tableau, Googleデータポータルなど)があります。最初はスプレッドシートでの管理から始め、顧客数の増加に合わせてツールの導入を検討するのが現実的です。
まとめ
本記事では、カスタマーサクセスにおけるKPIの重要性から、具体的な指標、設定手順、運用方法までを解説しました。
KPIは、チームを管理するためだけのツールではありません。KPIとは、顧客が本当に成功しているのか、そして我々の活動がその成功に貢献できているのかを教えてくれる「指針」です。
この記事を参考に、ぜひ自社に最適なKPIを設定し、データに基づいた戦略的なカスタマーサクセス活動を推進してください。それが、顧客の成功と、ひいてはあなたの事業の持続的な成長に繋がるはずです。