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No.68
更新日 2025年08月26日

【営業向け】「それ、欲しかった!」を引き出す潜在ニーズの引き出し方

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「お客様の要望に応えているはずなのに、契約に繋がらない…」。その原因は、顧客が口にする「顕在ニーズ」しか捉えられていないからかもしれません。真の成果を出すには、顧客自身も気づいていない本音、つまり「潜在ニーズ」を引き出すことが不可欠です。この記事では、潜在ニーズの基本から、明日から使える具体的な質問術、ヒアリングのコツまでを徹底解説します。顧客の心を深く理解し、選ばれる提案をするための第一歩を踏み出しましょう。

潜在ニーズと顕在ニーズの決定的違い

顧客のニーズは、海に浮かぶ氷山に例えることができます。

顕在ニーズと潜在ニーズの違い

項目顕在ニーズ (Manifest Needs)潜在ニーズ (Latent Needs)
定義顧客が自覚しており、言葉にできるニーズ顧客自身が自覚していない、あるいは言語化できていない本質的な欲求や課題
氷山の例え海面から見えている氷山の一角海面下に隠された巨大な氷
具体例・コストを削減したい
・業務効率化ツールが欲しい
・この商品が欲しい
(コスト削減を通じて) 新規事業へ投資する余力を生み出したい
(ツール導入で) 残業を減らし社員のエンゲージメントを高めたい
(この商品を手に入れて) 理想のライフスタイルを実現したい
フォードの逸話「もっと速い馬が欲しい」という顧客の言葉「もっと速く快適に移動したい」という本質的な欲求
本質表面的な要望インサイト(本音、深層心理)

潜在ニーズを引き出すこととは、この海面下に隠された巨大な氷、つまり顧客のインサイト(本音、深層心理)を発見するプロセスに他なりません。

潜在ニーズを掴むことで得られる3つのメリット

では、なぜこれほどまでに潜在ニーズを掴むことが重要なのでしょうか。それには、ビジネスを飛躍させる3つの大きなメリットがあります。

LTV(顧客生涯価値)の最大化と信頼関係の構築

表面的なニーズに応えるだけでは、価格競争に巻き込まれがちです。しかし、「私たちのことを誰よりも理解してくれている」という深いレベルでの課題解決を体験した顧客は、単なる取引相手ではなく、長期的なパートナーとしてあなたを信頼するようになります。結果として、アップセルやクロスセルに繋がりやすく、LTVが向上します。

競合優位性の確立

顕在ニーズは誰もがアクセスできる情報ですが、潜在ニーズは対話の中からでしか見つけられません。顧客自身も気づいていない課題に対して、的確なソリューションを提示できれば、競合他社にはない唯一無二の価値を提供できます。これが、価格競争から脱却し、選ばれ続けるための強力な武器となります。

革新的な商品・サービスの創出

「顧客の声」に耳を傾けるだけでは、既存の枠組みを超えるアイデアは生まれにくいものです。顧客の潜在的な不満や、言葉にならない願望を捉えることで、市場を驚かせるような革新的な商品やサービスのヒントが生まれます。

【ステップ別】潜在ニーズを引き出すための基本的な流れ

潜在ニーズは、やみくもに質問をすれば引き出せるものではありません。顧客が安心して本音を話せる環境を整え、段階的に対話を深めていくプロセスが不可欠です。ここでは、その基本的な4つのステップをご紹介します。

Step1:信頼関係の構築(ラポール形成)

本音を引き出す大前提は、「この人になら話しても大丈夫だ」という安心感です。これを心理学用語で「ラポール」と呼びます。いきなり課題や予算の話に入るのではなく、まずはアイスブレイクや雑談を通じて、相手との心理的な距離を縮めましょう。

共通点を見つける

人間は自分と似ている点を持つ相手に親近感を抱きやすい性質があります(類似性の法則)。出身地や母校、趣味、あるいは最近関心のあるニュースなど、ささいなことでも構いません。相手との会話の中から共通の話題を探し、「私も〇〇が好きなんです」と共有することで、一気に心理的な壁を取り払い、会話を弾ませることができます。

相手の状況や持ち物を肯定的に褒める

相手やその持ち物、環境などを褒めることは、関係構築の基本です。ただし、わざとらしいお世辞は逆効果になりかねません。「素敵なオフィスですね。日当たりが良くて気持ちがいいです」など、目に見えるものを肯定的に話題にすることで、相手は歓迎されていると感じ、警戒心を解いてくれます。

ミラーリングする

ミラーリングとは、鏡のように相手の仕草や言動をさりげなく真似る心理学のテクニックです。これを意識的に行うことで、相手は無意識のうちに「この人は自分と波長が合う」と感じ、心を開きやすくなります。やりすぎは不自然なので、あくまで「さりげなく」を心がけましょう

Step2:相手の状況や課題を広くヒアリングする

信頼関係が築けたら、いきなり核心を突くのではなく、まずは相手の現状について広く質問を投げかけます。ここでは、特定の課題に絞り込むのではなく、全体像を把握することに努めます。

  • 「最近、お仕事の状況はいかがですか?」
  • 「現在、〇〇(業務やプロジェクト)はどのような体制で進められているのですか?」
  • 「チーム全体として、今最も力を入れていることは何でしょうか?」

この段階では、「はい/いいえ」で終わらないオープンクエスチョン(開かれた質問)を使い、相手に自由に話してもらうことを意識しましょう。

Step3:掘り下げる質問でインサイトを探る

相手の状況や課題の全体像が見えてきたら、次はいよいよ潜在ニーズの核心に迫るため、具体的な事柄について質問を掘り下げていきます。ここでの目的は、事実の確認だけでなく、相手の感情や価値観、背景にある想いを理解することです。

  • 「なぜ、そのように感じられるのですか?」
  • 「具体的に、どのような点でお困りですか?」
  • 「その課題が解決されると、どのような理想の状態になりますか?」

後述する質問フレームワークは、このステップで特に大きな力を発揮します。

Step4:仮説を立て、相手に確認する

一連のヒアリングを通じて見えてきたインサイトを基に、「お客様が本当に求めているのは、〇〇ということではないでしょうか?」という仮説を立て、相手に投げかけてみます。

  • 「お話を伺っていると、単にコストを削減したいというよりも、それによって生まれたリソースを新規事業に集中させたい、というお考えが背景にあるのではないでしょうか?」
  • 「つまり、〇〇という課題を解決することで、最終的には△△という状態を実現されたい、ということでよろしいでしょうか?」

この仮説検証のプロセスを通じて、顧客自身もぼんやりとしか認識していなかったニーズが明確な言葉になります。もし仮説が違っていても問題ありません。「いえ、実は…」と、さらに深い本音を引き出すきっかけになることもあります。

これだけは押さえたい!潜在ニーズを引き出す質問フレームワーク7選

ここでは、明日からの対話で即使える、潜在ニーズを引き出すための強力な質問フレームワークを7つ厳選してご紹介します。状況に合わせて使い分けることで、ヒアリングの質を飛躍的に高めることができます。

1. SPIN法

SPIN(スピン)法は、特にBtoBの大型商談において絶大な効果を発揮するフレームワークです。Situation(状況質問)→ Problem(問題質問)→ Implication(示唆質問)→ Need-payoff(解決質問)の4つの質問を順番に行うことで、顧客自身に課題の重要性を認識させ、解決への期待感を高めていきます。

質問の種類目的質問例
Situation (状況質問)現状を把握し、会話の糸口を掴む「現在、どのようなシステムをお使いですか?」「〇〇業務のフローはどのようになっていますか?」
Problem (問題質問)顕在的・潜在的な問題や不満を引き出す「そのシステムを使う上で、何か不便な点はありますか?」「〇〇の業務で時間がかかっていると感じることはありますか?」
Implication (示唆質問)問題がもたらす悪影響(コスト、時間など)を認識させる「その問題があることで、具体的にどれくらいの損失に繋がっていますか?」「そのせいで、社員の残業時間が増えてしまっている、ということはありませんか?」
Need-payoff (解決質問)課題解決後の理想の姿をイメージさせ、期待感を高める「もし、この問題を解決できたら、どのようなメリットがありますか?」「〇〇が実現できれば、御社のビジネスにどのようなインパクトを与えられますか?」

ポイント

特に重要なのが「I(示唆質問)」です。ここで問題の重大さを顧客自身に気づかせることが、提案の価値を大きく左右します。

2. BANT条件

BANT(バント)条件は、法人営業において、その商談が成約に至る可能性を見極めるための基本的な確認項目です。これらをヒアリングすることで、提案の精度を高めることができます。

項目確認する内容
B (Budget)予算:導入に必要な予算は確保されているか?
A (Authority)決裁権:目の前の担当者に決裁権はあるか?
あるいは決裁プロセスを把握しているか?
N (Needs)必要性:顧客は製品やサービスを本当に必要としているか?(潜在ニーズの確認)
T (Timeframe)導入時期:具体的にいつまでに導入を検討しているか?

注意

これらの項目を直接的に聞きすぎると、尋問のようになってしまいます。「もし導入するとした場合、ご予算はどのようにお考えですか?」のように、仮定の話として質問するなど工夫が必要です。

3. 4つの学習タイプ質問術

人はそれぞれ情報の捉え方や意思決定のプロセスが異なります。相手のタイプに合わせて質問の仕方を変えることで、よりスムーズに本音を引き出すことができます。

タイプ特徴有効な質問・アプローチ
なぜ(Why)タイプ目的や理由を重視する。物事の本質を知りたい。「なぜ、このプロジェクトが重要なのでしょうか?」と目的を問いかける。理念やビジョンから話す。
なに(What)タイプ事実やデータを重視する。論理的で客観的な情報を求める。「具体的に、どのようなデータに基づいていますか?」と根拠を問う。正確な情報やスペックを提示する。
どうやって(How)タイプ手順や方法を重視する。具体的な進め方を知りたい。「具体的に、どのようなステップで進めれば良いでしょうか?」とプロセスを問う。マニュアルや手順書で示す。
もし(What if)タイプ感覚や感情を重視する。人と違うことや新しいことを好む。「もし、これが実現したらワクワクしませんか?」と感情に訴えかける。事例や体験談を話す。

4. 過去・現在・未来の質問

相手の課題や願望を、点ではなく線で捉えるためのフレームワークです。時間軸を意識して質問することで、背景や本質的な目的が見えてきます。

時間軸で深掘りする質問(過去・現在・未来)

時間軸質問の目的質問例
過去根本的な原因や課題の本質を探る・「以前は、この課題に対してどのような対策をされていましたか?」
・「なぜ、その方法ではうまくいかなかったのでしょうか?」
現在今抱えている問題の解像度を高める・「現在、最もお困りのことは何ですか?」
・「その状況によって、どのような影響が出ていますか?」
未来相手の真のゴール(潜在ニーズ)を引き出す・「この課題が解決されたら、3年後はどうなっていたいですか?」
・「最終的に、どのような状態を実現するのが理想ですか?」

5. 「もしも」の質問(仮定質問)

「もし、予算や時間に何の制約もなかったら、何をしますか?」
「もし、あなたが社長だったら、この状況をどう変えますか?」

このような「もしも」の質問は、相手を現実の制約から解放し、普段は口にしないような理想や本音を引き出すのに役立ちます。相手の固定観念を取り払い、自由な発想を促すことで、潜在的な願望が見えやすくなります。

6. 5回の「なぜ」

トヨタ生産方式で有名な「なぜなぜ分析」を応用したものです。表面的な問題に対して「なぜ?」を5回繰り返すことで、根本的な原因や本質的な課題にたどり着くことを目指します。

  1. 問題:「新しいシステムを導入したい」
  2. なぜ?①「手作業でのデータ入力に時間がかかっているから」
  3. なぜ?②「複数のシステムからデータを集計する必要があるから」
  4. なぜ?③「部署ごとに異なるシステムを導入してしまったから」
  5. なぜ?④「全社的なIT戦略が統一されていなかったから」
  6. なぜ?⑤「各部署が自分たちの業務効率だけを考えていたから」

本質的な課題:システムの問題だけでなく、組織のサイロ化やコミュニケーション不足が根本原因。

注意

尋問のようにならないよう、「なるほど、なぜそうなってしまったのでしょうか?」と、共感を示しながら問いかけることが重要です。

7. チャンクダウン/チャンクアップ

話の抽象度を意図的に上げ下げすることで、相手の真の目的(全体像)と具体的な状況(詳細)の両方を的確に捉えるためのアプローチです。

チャンクダウン

チャンクダウンは抽象的な話を具体的に掘り下げるアプローチです。

相手:「会社のブランドイメージを向上させたい」

自分:「具体的には、どのようなイメージを持たれたいですか?」「どのターゲット層に対してですか?」

チャンクアップ

チャンクアップは具体的な話から抽象度を上げ、目的や全体像を把握するアプローチ。

相手:「このボタンの色を赤にしてほしい」

自分:「ボタンの色を赤にすることで、最終的にどのような目的を達成したいのですか?」(例:注意を引いてクリック率を上げたい)

この2つの視点を使い分けることで、話の解像度を上げたり、本質的な目的(潜在ニーズ)を確認したりすることができます。

【応用編】チーム内の1on1や自己分析への活用法

潜在ニーズを引き出すスキルは、顧客との対話だけに留まりません。

チーム内の1on1

「今の業務で何か困っていることはない?」という質問に、部下が「特にありません」と答えたとします。

そこで、「もし、部署の予算を自由に使っていいと言われたら、どんなことに挑戦してみたい?(仮定質問)」と問いかけることで、「実は新しい分析ツールを試してみたかった」といった本音や意欲を引き出せるかもしれません。

自己分析

「自分は将来どうなりたいんだろう?」と漠然と考えている時。

「なぜ、そうなりたいのだろう?(なぜなぜ分析)」「3年後、理想の自分はどんな毎日を送っている?(未来質問)」と自問自答を繰り返すことで、自分が本当に大切にしている価値観や、心の底から望んでいること(潜在ニーズ)に気づくことができます。

潜在ニーズを引き出す上で注意すべき3つのポイント

最後に、テクニックに頼るだけでは陥りがちな失敗を防ぐための、重要な心構えを3つお伝えします。

1. 尋問にならないように「傾聴」を意識する

フレームワークを意識するあまり、質問ばかりを矢継ぎ早に投げかけてしまうと、相手は尋問されているように感じ、心を閉ざしてしまいます。最も重要なのは「傾聴」の姿勢です。

  • 相手の話を最後まで遮らずに聞く。
  • 相槌やうなずきで、聞いていることを示す。
  • 相手の言ったことを「〇〇ということですね」と要約して確認する。

「話す」ことよりも「聞く」ことの比重を大きく(目安は、聞く:話す=8:2)することを心がけましょう。

2. 自分の思い込み(バイアス)を捨てる

「この顧客はきっと価格を重視しているはずだ」「この業界の課題はこれに違いない」といった先入観や思い込みは、相手の本音を見えなくさせてしまいます。自分の考えは一旦脇に置き、真っ白な状態で相手の話に耳を傾けることが大切です。相手の話の中に、自分の仮説と違う部分があったら、そこがまさに潜在ニーズを探るチャンスです。

3. 沈黙を恐れない

質問をした後、相手が考え込む「沈黙」が訪れることがあります。気まずさから、つい別の質問を重ねたり、自分で話し始めたりしてしまいがちですが、ぐっとこらえましょう。

この沈黙は、相手が自分の内面と向き合い、言葉にならない想いを整理している大切な時間です。沈黙を恐れず、相手が口を開くのを待つ姿勢が、深い信頼関係と、より本質的なインサイトに繋がります。

【Q&A】潜在ニースの引き出し方に関するよくある質問

Q. 相手がなかなか本音を話してくれない場合はどうすればいいですか?

A. まずはStep1の「ラポール形成」が十分にできているかを見直しましょう。相手との信頼関係がなければ、本音は引き出せません。焦らず、自己開示(まず自分からプライベートな話を少しする、過去の失敗談を話すなど)をしてみるのも有効です。また、「もし言いにくいことであれば、無理にとは言いませんが…」と前置きをし、相手に逃げ道を用意してあげることも、安心感に繋がります。

Q. オンラインでのヒアリングで気をつけることはありますか?

A. オンラインでは、非言語情報(表情、仕草など)が伝わりにくいため、対面以上に意識的なコミュニケーションが必要です。

  • いつもより少し大きめのリアクション(うなずき、相槌)を心がける。
  • カメラをしっかり見て、視線を合わせる意識を持つ。
  • 会話の合間に「ここまでで、何か分かりにくい点はありましたか?」とこまめに確認を入れる。

これらの工夫で、心理的な距離を縮めることができます。

Q. 引き出した潜在ニーズをどのように提案に繋げれば良いですか?

A. 引き出した潜在ニーズを、相手の言葉を使って提案書やプレゼンテーションに反映させることが極めて重要です。「〇〇様がおっしゃっていた、『△△という状態を実現したい』という想いを叶えるために、このプランをご提案します」というように、相手の言葉を主語にすることで、「これはまさに自分のための提案だ」と感じてもらいやすくなります。機能やスペックの説明ではなく、潜在ニーズが解決された未来(ベネフィット)を具体的にイメージさせることが鍵となります。

まとめ

この記事では、顧客自身も気づかない本音「潜在ニーズ」を引き出すための具体的なステップと質問フレームワークを解説しました。SPIN法などの手法は有効ですが、最も重要なのはテクニック以前の「傾聴」の姿勢です。潜在ニーズを引き出すスキルは、相手を深く理解しようとする「顧客理解」そのものと言えます。

顧客の言葉の奥にある本音に寄り添い、本質的な課題を解決できた時、あなたは唯一無二のパートナーとして信頼されるでしょう。今日学んだことを一つでも明日の対話で実践してみてください。その小さな一歩が、あなたのビジネスと顧客との関係を、より豊かで実りあるものへと変えていくはずです。

顧客理解を深める営業活動には企業データベース「SalesNow」

潜在ニーズを引き出すには、相手企業や担当者への理解が欠かせません。

「SalesNow」は全国540万社を網羅した業界最大級の企業データベースで、部署・拠点・人物単位の連絡先情報が掲載されています。信頼関係を築く第一歩として、顧客情報の整理に活用してみてはいかがでしょうか。

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