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No.70
更新日 2025年08月26日

バリューセリングとは?価格競争から脱却するための全技術

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「製品の機能や品質には自信があるのに、最後の最後で『価格が高い』と言われて失注してしまう…」
「顧客の担当者レベルでは話が盛り上がるが、役員プレゼンで『費用対効果はどうなってるの?』と一蹴される…」
「営業チームが、いつまでも製品の機能説明ばかりの『モノ売り』から抜け出せない…」

BtoB営業に携わる、意欲の高いビジネスパーソンほど、このような根深い課題に直面しています。顧客が賢くなり、情報が溢れる現代において、もはや製品の機能やスペックを語るだけでは、顧客の心、そして財布の紐を掴むことはできません。

本記事では、BtoB営業における最上位の営業手法である「バリューセリング」について、その本質的な考え方から、具体的な実践プロセス、そして顧客に価値を定量的に示すためのフレームワークまでを、網羅的かつ体系的に解説します。

バリューセリングとは?

まず、バリューセリングの本質と、従来の営業手法との決定的な違いを理解しましょう。

バリューセリングの定義

バリューセリングとは、自社の製品・サービスが持つ機能やメリット(What)を売るのではなく、それらが顧客のビジネスにもたらす具体的な「価値(Value)」、特に経済的な価値(売上向上、コスト削減、生産性向上など)を、定量的に明らかにし、その価値の最大化を顧客と共に実現していく営業手法です。

営業の会話の中心は、自社製品ではなく、常に「顧客のビジネス」です。顧客の経営課題に深く入り込み、その解決に貢献するパートナーとして、「いくらで売るか」ではなく、「どれだけの価値を生み出せるか」を議論します。

【徹底比較】プロダクト営業、ソリューション営業との決定的な違い

営業スタイル主語提案の焦点ゴール
プロダクト営業私(自社)は…製品の機能・スペック製品を売ること
ソリューション営業あなた(顧客)は…顧客の課題課題を解決すること
バリューセリング私たちは…顧客のビジネス価値(ROI)顧客の成功を実現すること

従来のプロダクト営業が「この製品にはこんなに凄い機能があります」と語るのに対し、ソリューション営業は一歩進んで「あなたのその課題は、この機能で解決できます」と語ります。

そして、バリューセリングはさらにその先、「その課題を解決することで、あなたのビジネスには年間〇〇円の利益が生まれます。その価値を実現するために、共に取り組みましょう」と、顧客の経営にまで踏み込んで語りかけるのです。

なぜ今、バリューセリングでなければ、BtoBで勝てないのか?

製品・サービスがコモディティ化し、機能だけでは差別化が難しい現代において、プロダクト営業は即座に価格競争に巻き込まれます。また、顧客自身がインターネットで課題解決策を調べられるようになった今、ソリューション営業だけでは、「それは知っている」と言われてしまいかねません。

最終的な投資判断を下す決裁者が知りたいのは、「機能」でも「解決策」でもなく、「その投資が、どれだけのリターンを生むのか(ROI)」という一点です。この問いに唯一答えられるのが、バリューセリングなのです。

バリューセリングがもたらす4つの強力なメリット

バリューセリングを実践することで、営業担当者と組織は絶大なメリットを享受できます。

メリット1:価格競争からの完全な脱却

議論の土俵が「価格」から「価値」へと変わるため、単純な価格比較に持ち込まれることがなくなります。顧客が「100万円の投資で、500万円の価値が生まれる」と納得すれば、たとえ競合製品が80万円でも、あなたの提案が選ばれるのです。

メリット2:決裁者との対話と、大型案件の創出

「コスト削減」や「売上向上」といった経営の言葉で語ることで、現場担当者レベルだけでなく、部長や役員といった決裁者と直接対話する機会が生まれます。経営課題に直結する提案は、必然的に大型の予算がつく、大規模な案件へと発展しやすくなります。

メリット3:顧客との長期的なパートナーシップ構築

顧客のビジネスの成功に深くコミットする姿勢は、単なる「取引先」を超えた、強固な信頼関係を育みます。顧客にとってあなたは、ビジネスの成功に不可欠な「戦略的パートナー」となるのです。

メリット4:営業担当者自身の市場価値の向上

経営者の視点でビジネスを語り、ROIを算出できる営業担当者は、極めて希少な存在です。バリューセリングのスキルを身につけることは、あなた自身の市場価値を飛躍的に高める、最高の自己投資と言えるでしょう。

【5ステップで実践】バリューセリングの実行プロセス

バリューセリングは、以下の5つの体系的なステップで実践します。

STEP1:【リサーチ】顧客のビジネスモデルと経営課題を徹底的に理解する

商談の前に、顧客のビジネスを徹底的にリサーチします。中期経営計画やIR情報、プレスリリースなどを読み込み、「この会社が今、最も解決したい経営課題は何か?」という仮説を立てます。

STEP2:【ヒアリング】課題の「影響」と「理想の姿」を深掘りする

商談の場では、製品説明から入るのではなく、仮説を基に顧客の課題を深掘りします。重要なのは、課題そのものだけでなく、「その課題が放置されることで、ビジネスにどれだけの悪影響(コスト増、機会損失など)が出ているのか」、そして「その課題が解決されたら、どのような理想の姿になるのか」を、顧客自身の言葉で語ってもらうことです。

STEP3:【価値の定量化】顧客の言葉で、ROI(投資対効果)を算出する

STEP2で引き出した「課題の影響」と「理想の姿」を、具体的な「金額」に変換する、最も重要なプロセスです。「その作業には、何人が、何時間かかっていますか?」「もし〇〇が実現すれば、売上は何%向上しそうですか?」といった質問を通じて、顧客と一緒に、導入効果(ROI)を試算していきます。

STEP4:【価値提案】ストーリーとして、解決策と経済的価値を提示する

STEP3で算出したROIを基に、最終的な提案を行います。「〇〇という課題に対し、弊社のサービスを導入することで、年間△△万円の価値が創出できます。その実現のために、□□万円の投資をご決断ください」というように、課題→解決策→経済的価値という一貫したストーリーとして提示します。

STEP5:【価値の実現】導入後も、顧客の成功にコミットする

契約して終わりではありません。提案した「価値」が、実際に顧客のビジネスで実現されるまで、導入後も伴走し、成功にコミットします。これにより、顧客との信頼関係は確固たるものとなり、次のビジネスチャンスへと繋がっていきます。

【最重要】顧客のビジネス価値を発見し、定量化するための技術

価値を発見する魔法の質問

顧客が課題について語った時、「大変ですね」で終わらせてはいけません。「もし、その課題が完全に解決されたとしたら、〇〇様のビジネスには、具体的にどのような良い変化が起こりますか?」この魔法の質問が、顧客の視点を「問題」から「理想の未来(価値)」へと転換させ、価値の定量化への扉を開きます。

ROIを算出するための基本的な考え方と計算式

ROIの算出は、難しく考える必要はありません。基本は「導入によって得られる利益(or 削減できるコスト) ÷ 投資額 × 100」です。

月100時間の無駄な作業(人件費50万円/月)をゼロにできるソリューションを、300万円で提案する場合。

項目内容
年間削減コスト50万円 × 12ヶ月 = 600万円
ROI(600万円 - 300万円) ÷ 300万円 × 100 = 100%
提案トーク「300万円のご投資で、初年度に600万円のコスト削減、つまり投資対効果100%が実現できます」

顧客と一緒に価値を試算する「バリューセッション」の進め方

価値の定量化は、営業が一人で行うのではなく、顧客を巻き込んで「バリューセッション」として共同作業で行うのが理想です。ホワイトボードなどを使いながら、現状のコストや課題を顧客に書き出してもらい、それらが解決された場合の経済的インパクトを一緒に計算していくことで、顧客は自社の課題と、その解決価値を「自分ごと」として深く認識します。

説得力のある価値提案を構築するフレームワーク

バリュープロポジションキャンバスを活用した、提案ストーリーの作り方

「バリュープロポジションキャンバス」は、顧客の課題(Customer Jobs, Pains)と、自社の提供価値(Gain Creators, Pain Relievers)を整理し、両者が完全に合致する点(バリュープロポジション)を見つけ出すためのフレームワークです。これを活用することで、独りよがりではない、顧客に突き刺さる提案ストーリーを構築できます。

決裁者に響く、経営指標に結びつけた提案書の構成要素

決裁者向けの提案書には、機能の羅列は不要です。含めるべきは、①現状の経営課題、②課題がもたらす経済的損失、③提案ソリューション、④導入による経済的効果(ROI)、⑤投資計画とスケジュール、という5つの要素です。

バリューセラーに求められる3つのコアスキル

スキル1:経営者視点でビジネスを語る「ビジネスア acumen」

担当する業界や顧客のビジネスモデルを深く理解し、経営者と同じ言葉(売上、利益、生産性など)で対話できる能力。

スキル2:数字で価値を証明する「財務リテラシー」

顧客の課題を金額に換算し、ROIや投資回収期間といった財務指標を用いて、提案の正当性を論理的に証明できる能力。

スキル3:顧客を導き、変革を支援する「チェンジマネジメント能力」

新しいソリューションの導入は、顧客企業にとって大きな「変化」です。その変化に伴う不安や抵抗を乗り越え、プロジェクトを成功に導く、変革のリーダーとしての能力。

バリューセリングに関するQ&A

Q. 顧客が、自社の課題や数値を教えてくれません。どうすれば?

A. 信頼関係がまだ構築できていない証拠です。 まずは、一般的な業界の課題や、他社の成功事例といった情報を提供することから始め、あなたが「価値ある情報を提供してくれる、信頼できる専門家」であることを認識してもらいましょう。信頼関係が深まれば、顧客は少しずつ内情を話してくれるようになります。

Q. 無形商材(コンサルティングなど)の場合、どのように価値を定量化すれば良いですか?

A. 直接的なコスト削減などが難しい場合は、「もし、このコンサルティングを導入しなかった場合に、将来発生しうるリスクの大きさ(リスク回避額)」や、「従業員の生産性向上による、人件費換算での価値創出額」といったアプローチで定量化を試みます。

Q. チーム全体にバリューセリングを浸透させるには、何から始めれば?

A. まずは、トップセールスの成功商談を基に、自社なりの「バリューセリングの型(勝ちパターン)」を一つ作ることです。その成功事例をロールプレイングの教材としたり、アカウントプランのテンプレートに組み込んだりして、チーム全体に横展開していくのが最も効果的です。

まとめ

本記事では、価格競争から脱却し、BtoB営業として次のステージに進むための「バリューセリング」の全技術を解説しました。

バリューセリングは、単に高価な商品を売るためのテクニックではありません。それは、顧客のビジネスの奥深くまで入り込み、その成功を心から願い、数字という共通言語で未来への道筋を共に描き出す、最高の知的興奮に満ちた営業活動です。

「モノを売る」仕事から、「価値を創る」仕事へ。その変革の先に、顧客からの絶大な信頼と、あなた自身の輝かしいキャリアが待っているはずです。

バリューセリングを支える企業データベース「SalesNow」

価値で勝負する営業を実現するには、顧客の課題を深く理解し、最適なアプローチを取るための情報基盤が欠かせません。

「SalesNow」は全国540万社を網羅した業界最大級の企業データベースで、部署・拠点・人物単位の連絡先情報までを掲載。バリューセリングの実践を強力に後押しし、顧客との信頼構築と成果創出を支援します。

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