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No.75
更新日 2025年08月26日

リテンション営業とは?LTVを最大化し、売上を安定させる方法

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「新規顧客の獲得コストばかりが膨らみ、利益を圧迫している…」
「せっかく契約していただいたお客様が、いつの間にか競合に乗り換えてしまう…」
「常に新規開拓のプレッシャーに晒され、チーム全体が疲弊している…」

もしあなたの営業組織がこのような「穴の空いたバケツ」状態に陥っているとしたら、その原因は、顧客を「獲得した後」の活動、すなわちリテンション営業の欠如にあるのかもしれません。企業の持続的な成長は、新規開拓という「攻め」だけでは実現できません。既存顧客との関係を深め、長くファンでいてもらう「守り」と「育成」の戦略があって初めて、強固で安定した収益基盤が築かれるのです。

本記事では、企業の持続的な成長の鍵を握る「リテンション営業」について、その本質的な重要性から、具体的な実践手法、そして組織として取り組むための戦略までを、網羅的かつ体系的に解説します。

なぜ「新規開拓」よりも「リテンション営業」が重要なのか?

まず、リテンション営業がなぜ現代のビジネスにおいて、これほどまでに重要視されるのかを理解しましょう。

リテンション営業の定義

リテンション営業とは、既存顧客との関係を維持(retention)し、向上させることで、サービスの継続利用や追加購入(アップセル・クロスセル)を促し、LTV(顧客生涯価値)の最大化をする、戦略的な営業活動を指します。

これは、単に「顧客を失わない」という守りの活動に留まりません。顧客との関係性を深化させ、より大きな売上と利益を生み出していく「攻め」の側面を併せ持つのが特徴です。

「1:5の法則」と「穴の空いたバケツ理論」が示す、新規開拓の限界

マーケティングの世界には、2つの有名な法則があります。

法則内容
1:5の法則新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの 5倍 かかる。
5:25の法則顧客離れを 5%改善 すれば、利益が最低でも 25%改善 される。

これらの法則が示すのは、新規顧客の開拓ばかりに目を向けるのは、極めて非効率であるという事実です。蛇口から新しい水(新規顧客)を注ぎ続けても、バケツの底に穴(顧客離れ)が空いていては、水は決して溜まりません。まずは、その穴を塞ぐこと(=リテンション)こそが、事業成長の最も確実な一歩なのです。

カスタマーサクセスとの関係性

リテンション営業は、近年注目される「カスタマーサクセス」と非常に密接な関係にあります。カスタマーサクセスが「顧客の成功」を能動的に支援する活動全体を指すのに対し、リテンション営業は、その中でも特に**「契約更新」や「アップセル・クロスセル」といった、売上に直結する営業活動**に焦点を当てたもの、と捉えると分かりやすいでしょう。

リテンション営業がもたらす4つの強力な経営メリット

リテンション営業に注力することで、企業は絶大なメリットを享受できます。

メリット1:収益の安定化と予測可能性の向上

既存顧客からの継続的な売上(リカーリングレベニュー)は、収益の安定した土台となります。これにより、売上予測の精度が向上し、経営者は自信を持って、人員計画や新規事業への投資といった未来への意思決定を行うことができます。

メリット2:LTV(顧客生涯価値)の最大化

顧客との関係が長期化し、アップセルやクロスセルが成功することで、顧客一人ひとりが生涯にわたって企業にもたらす総利益(LTV)が最大化します。

メリット3:顧客満足度の向上による、アップセル・クロスセルの機会創出

手厚いフォローによって満足度が高まった顧客は、自社の製品・サービスに対する信頼を深めます。これにより、「もっと便利な上位プラン」や「関連する別のサービス」といった追加提案(アップセル・クロスセル)も、スムーズに受け入れられやすくなります。

メリット4:口コミ(リファラル)による、低コストな新規顧客獲得

自社のファンとなったロイヤル顧客は、友人や知人にそのサービスを推奨してくれる「最高の広告塔」になります。広告費をかけずに、質の高い新規顧客を獲得できるこの「リファラル」は、極めて効率の良い成長サイクルを生み出します。

「リテンション率」の計算方法

リテンション営業に取り組む前に、まずは自社の「顧客維持率=リテンション率」がどのくらいなのか、現状を客観的に把握しましょう。

リテンション率(顧客維持率)の基本的な計算式

リテンション率 (%) = (期間終了時の顧客数 - 期間中に獲得した新規顧客数) ÷ 期間開始時の顧客数 × 100

  • 四半期開始時(4/1)の顧客数:100社
  • 四半期中(4/1〜6/30)に獲得した新規顧客数:20社
  • 四半期終了時(6/30)の顧客数:110社
  • 計算: (110 - 20) ÷ 100 × 100 = 90%

この場合、この四半期のリテンション率は90%、逆に言えば、解約率(チャーンレート)は10%だったということになります。

あなたの会社は大丈夫?業界別のリテンション率の目安

リテンション率の理想値は業界によって異なりますが、一般的にSaaSビジネスなどでは、月次で95%以上(年次で約70%以上)が一つの目安とされています。まずは自社の数値を算出し、業界平均と比較してみることから始めましょう。

【5つの方法で実践】明日から始めるリテンション営業

では、具体的にリテンション率を高めるためには、何をすれば良いのでしょうか。

方法1:【顧客理解】CRM/SFAを活用し、顧客データを一元管理・分析する

全ての基本は、顧客を深く知ることにあります。CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)を活用し、顧客の基本情報、過去の取引履歴、サポートへの問い合わせ内容といったあらゆる情報を一元管理します。そして、そのデータを分析し、優良顧客の共通点や、解約に至る顧客の予兆などを把握します。

方法2:【コミュニケーション】定期的な接点を持ち、信頼関係を深化させる

「契約して終わり」にせず、定例会やメール、電話などで定期的なコミュニケーションを取り続けましょう。目的は、単なる御用聞きではありません。顧客のビジネスの近況や、新たな課題などをヒアリングし、「私たちは、常にあなたのことを気にかけています」というメッセージを伝え、信頼関係を深化させることが重要です。

方法3:【価値提供】顧客の成功を支援する、有益な情報を提供する

製品の活用を促進するためのセミナーを開催したり、顧客の業界の最新動向をまとめたレポートを送付したりと、顧客のビジネスの成功(カスタマーサクセス)に繋がる、有益な情報を継続的に提供します。これにより、自社を単なる「取引先」から、なくてはならない「パートナー」へと昇華させます。

方法4:【アップセル/クロスセル】顧客の成長に合わせた、適切な追加提案を行う

顧客の事業が成長し、新たな課題が見えてきたタイミングで、その課題を解決できる上位プラン(アップセル)や、関連サービス(クロスセル)を提案します。これは、顧客のさらなる成功を支援するための、前向きな提案であり、決して押し売りではありません。

方法5:【フィードバック】顧客の声(VoC)を収集し、サービス改善に活かす

顧客からの要望や不満の声(VoC:Voice of Customer)は、自社のサービスを改善するための最も貴重なヒントです。アンケートやヒアリングを通じてこれらの声を積極的に収集し、製品開発やサポート体制の改善に迅速に反映させることで、顧客満足度は大きく向上します。

リテンション営業を成功に導くKPIと組織体制

追うべき重要指標(KPI)

リテンション営業では、従来の営業とは異なるKPIを追う必要があります。

  • LTV(顧客生涯価値)
  • チャーンレート(顧客離脱率)
  • NPS®(ネット・プロモーター・スコア / 顧客推奨度)
  • アップセル・クロスセル率

チームで実践するための役割分担

リテンション営業を成功させるためには、専門の役割を置くことが理想的です。

アカウントマネージャー

特定の既存顧客を担当し、関係維持と売上最大化の責任を負う。

カスタマーサクセス

顧客が製品・サービスを最大限に活用し、成功体験を得られるように能動的に支援する。

【事例に学ぶ】優れたリテンション営業戦略

事例1:Salesforce(カスタマーサクセスによる徹底伴走)

世界的なCRM/SFA企業であるSalesforceは、「カスタマーサクセス」という概念を世に広めた企業です。顧客の導入初期から活用、定着までを専門チームが徹底的に伴走支援することで、高い顧客維持率と、業界における圧倒的な地位を確立しています。

事例2:Amazon(パーソナライズされたレコメンデーションとPrime会員制度)

Amazonは、膨大な購買データを基にした精度の高いレコメンデーション(クロスセル)や、「お急ぎ便無料」などの特典を持つPrime会員制度によって、顧客を自社プラットフォームに強く惹きつけ(ロックインし)、驚異的なリピート率を実現しています。

事例3:スターバックス(ロイヤルティプログラムによるファン化)

公式アプリを通じたポイントプログラムや、会員限定の先行販売、パーソナライズされたメッセージなどを通じて、顧客に「特別な体験」を提供。コーヒーを飲むという目的を超えた、強いブランドへの愛着(ロイヤルティ)を醸成し、顧客の継続的な来店を促しています。

リテンション営業に関するQ&A

Q. 顧客から解約の相談をされたら、どう対応すべきですか?

A. まずは冷静に、そして真摯に、解約を検討している理由をヒアリングすることが最も重要です。相手を非難したり、焦って引き止めたりしてはいけません。もし、自社のサービスや対応に不満がある場合は、謝罪と共に具体的な改善策を提示します。価格が理由の場合は、機能の一部を制限した安価なプラン(ダウンセル)を提案するのも一つの手です。

Q. 長年の付き合いで、関係がマンネリ化してしまっています。

A. 改めて、顧客の「現在の」ビジネス課題や、中期的な目標についてヒアリングする場を設けてみましょう。「最近、〇〇という新しい取り組みを始められたと伺いましたが…」と、こちらから情報収集した上で質問することで、顧客は「自社のことをよく見てくれている」と感じ、新たな対話が生まれるきっかけになります。

Q. リテンション営業と、従来のルートセールスの違いは何ですか?

A. 従来のルートセールスが、決められたルートを訪問し、注文を取るという「現状維持」の側面が強いのに対し、リテンション営業は、顧客のLTV最大化という明確な目標を持ち、アップセルやクロスセルなどを通じて、顧客と自社の双方の売上を積極的に「向上」させていくという、より戦略的で能動的な活動である点が大きく異なります。

まとめ

本記事では、新規開拓のプレッシャーから解放され、安定した収益基盤を築くための「リテンション営業」について、その考え方から具体的な実践方法までを網羅的に解説しました。

リテンション営業の本質は、顧客を単なる「売上」として見るのではなく、自社の未来を共に創っていく「パートナー」として捉え、その成功にどこまでも寄り添うことにあります。

顧客との信頼の絆を一本一本、丁寧に紡いでいくこと。それこそが、変化の激しい時代を生き抜くための、最も確実で、最も賢明な成長戦略と言えるでしょう。

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リテンション営業を成功させるには、顧客を深く理解し、一歩先を見据えた提案を行うための確かな情報が欠かせません。

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