LTV(顧客生涯価値)とは?計算方法と向上させる方法を解説
目次
「広告費をかけて新規顧客を集めているのに、なぜか利益が残らない…」
「お客様は一度は買ってくれるが、その後リピートに繋がらない…」
「SaaSビジネスを始めたが、短期解約が多くて売上が安定しない…」
もし、あなたのビジネスがこのような課題を抱えているなら、その原因は「新規顧客の獲得」にばかり目を向け、「既存顧客との長期的な関係」を見過ごしていることにあるのかもしれません。企業の持続的な成長の鍵は、顧客一人ひとりと、いかに長く、深く付き合えるかにかかっています。その健全性を示す最重要指標こそが「LTV(顧客生涯価値)」です。
本記事では、サブスクリプション時代における最重要指標「LTV(顧客生涯価値)」について、その本質的な意味から、具体的な計算方法、そしてLTVを最大化させるための戦略までを、網羅的かつ体系的に解説します。
LTV(顧客生涯価値)とは?
まず、LTVという指標が、なぜ現代のビジネスにおいてこれほどまでに重要視されるのか、その定義から理解していきましょう。
LTVの定義
LTVとは「Life Time Value(ライフタイムバリュー)」の略で、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。その定義は、「一人の顧客が、自社と取引を開始してから終了するまでの全期間(顧客ライフサイクル)において、自社にもたらす利益の総額」のことです。
一度きりの取引で得られる売上ではなく、その顧客がリピート購入したり、より高額なプランに移行したり、長期にわたってサービスを使い続けてくれたりすることで得られる、未来の収益まで含めて算出します。
なぜ重要?
LTVが重要視される背景には、有名なマーケティングの法則と、ビジネスモデルの変化があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1:5の法則 | 新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの 5倍 かかる。 |
| サブスクリプションモデルの普及 | 月額課金制のSaaSや動画配信サービスのように、顧客に継続的に利用してもらうことで収益を上げるビジネスモデルが主流になった。 |
これらの背景から、いかに新規顧客獲得コストを抑え、既存顧客に長く利用し続けてもらうかが、事業の収益性を左右する最大の鍵となったのです。LTVは、まさにその「顧客との長期的な関係性」を数値で可視化する指標なのです。
CLV(Customer Lifetime Value)との違い
LTVとしばしば同様に使われる言葉に「CLV」があります。これは「Customer Lifetime Value」の略で、基本的にはLTVと全く同じ意味です。海外ではCLVが使われることも多いですが、日本ではLTVという呼称がより一般的です。本記事では、LTVに統一して解説します。
LTVとセットで理解すべき重要指標「CAC(顧客獲得コスト)」
LTVを語る上で、絶対に切り離せないのが「CAC」という指標です。
CACとは?
CACとは「Customer Acquisition Cost(カスタマーアクイジションコスト)」の略で、「顧客獲得コスト」を意味します。つまり、新規顧客を一人獲得するためにかかった、広告費や営業人件費などの総コストのことです。
事業成長の健全性を示す「ユニットエコノミクス(LTV > CAC)」
ビジネスが健全に成長しているかを判断する上で、「LTVがCACを上回っているか」という指標(ユニットエコノミクス)が極めて重要です。
| 状態 | 内容 |
|---|---|
| LTV > CAC | 健全な状態。顧客一人を獲得するためにかかったコストを、その顧客が将来もたらしてくれる利益で上回っているため、事業は成長していく。一般的に、LTVがCACの3倍以上あることが健全な事業の一つの目安とされる。 |
| LTV < CAC | 危険な状態。顧客を一人獲得するたびに赤字が膨らんでいる状態であり、早急なビジネスモデルの見直しが必要。 |
【レベル別】LTVの具体的な計算方法・計算式
LTVには複数の計算式が存在します。ここでは、自社の状況に合わせて使えるように、3つのレベルに分けて解説します。
誰でも簡単に計算できる基本の式
ECサイトや小売業など、幅広いビジネスで使える最も基本的な計算式です。
- LTV = 平均顧客単価 × 平均購買頻度 × 平均継続期間 × 利益率
各項目の意味
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 平均顧客単価 | 1回の購入あたりの平均金額 |
| 平均購買頻度 | 顧客が年(または月)に何回購入するか |
| 平均継続期間 | 顧客が何年(または月)にわたって取引を続けるか |
| 利益率 | 売上に対する利益の割合 |
SaaS・サブスクリプションビジネスでよく使われる計算式
顧客の継続利用が前提となるSaaSビジネスでは、よりシンプルな計算式が用いられます。
- LTV = ARPA(アカウントあたりの平均月次収益) ÷ チャーンレート
各項目の意味
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| ARPA (Average Revenue Per Account) | 1顧客あたりの平均月額料金 |
| チャーンレート | 顧客の月次解約率 |
より詳細な分析のための、応用的な計算式
上記の式は「売上」ベースですが、より厳密に「利益」ベースでLTVを算出する計算式もあります。
- LTV = ARPA × 利益率 ÷ チャーンレート
【5つの戦略で実践】LTVを最大化させるための具体的な方法
LTVは、以下の5つの要素の掛け算で成り立っています。つまり、これらの要素を改善することが、LTVを最大化させるための具体的な戦略となります。
戦略1:顧客単価を上げる(アップセル・クロスセル)
顧客一人あたりの購入金額(顧客単価)を高めるための施策です。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| アップセル | より高価格の上位プランや商品を提案する。 |
| クロスセル | 関連商品を「合わせ買い」してもらう。 |
戦略2:購買頻度を高める(リピート促進)
顧客の購入回数を増やすための施策です。
例
メールマガジンやLINEでの新商品・キャンペーン告知、ポイントカードや会員ランク制度の導入など。
戦略3:継続期間を延ばす(チャーンレート改善)
顧客に、より長くサービスを使い続けてもらう(解約させない)ための施策です。サブスクリプションビジネスでは最も重要な戦略と言えます。
例
導入初期のオンボーディング支援、定期的な活用セミナーの開催、カスタマーサポートの品質向上など。
戦略4:収益性を改善する(コスト削減)
売上に対する利益率を高めるための施策です。
例
業務プロセスを見直し、提供コストやサポートコストを削減する、価格改定を行うなど。
戦略5:顧客の口コミ・紹介を促進する(リファラル)
満足度の高い顧客に、友人や知人を紹介してもらう施策です。紹介によって得られた顧客は、ロイヤルティが高い傾向にあり、LTVの向上に大きく貢献します。
例
紹介者と被紹介者の双方に特典を提供する「友達紹介キャンペーン」など。
LTV向上の鍵を握る「カスタマーサクセス」という考え方
顧客の成功が、LTV向上に直結する
上記のLTV向上戦略、特に「継続期間の延長」や「アップセル・クロスセル」を成功させる上で、近年最も重要視されているのが「カスタマーサクセス」という考え方です。これは、企業側から能動的に顧客に働きかけ、製品・サービスを最大限に活用して「成功体験」を得られるように支援する活動です。顧客が成功すれば、満足度は高まり、結果として解約率は下がり、LTVは向上します。
LTVを最大化する組織体制の作り方
LTVを組織として追求するためには、営業やマーケティングだけでなく、カスタマーサポートや開発など、全部門が顧客の成功を目指す文化を醸成することが不可欠です。その司令塔として、専門部署である「カスタマーサクセス部門」を設置する企業が、特にSaaS業界で急増しています。
【業界別】LTVの活用事例
SaaSビジネスにおける活用事例
SaaS企業は、LTVとCACを常に監視し、「LTV > CAC × 3」という黄金比率を維持できているかを経営の羅針盤としています。LTVが低い場合は、プロダクトの改善や、カスタマーサクセス活動の強化といった判断を下します。
ECサイトにおける活用事例
ECサイトは、LTVの高い優良顧客セグメントを特定し、その顧客層に対して特別なクーポンを配布したり、先行販売の案内を送ったりといった、VIP向けのマーケティング施策を展開します。
LTVに関するQ&A
Q. どの計算式を使えば良いか分かりません。
A. まずは、本記事で紹介した「基本の式」から始めてみましょう。 必要なデータ(顧客単価、購買頻度など)を概算でも良いので当てはめ、自社のLTVの桁感を掴むことが第一歩です。SaaSビジネスであれば、よりシンプルな「ARPA ÷ チャーンレート」の式が使いやすいでしょう。
Q. CACがLTVを上回っています。まず何をすべきですか?
A. 事業の存続に関わる危険なサインです。 まずは、①CACを下げる努力(広告チャネルの見直し、オーガニック検索からの流入強化など)と、②LTVを上げる努力(本記事で紹介した5つの戦略)を、同時並行で、かつ最優先で実行する必要があります。特に、チャーンレートの改善は、多くのSaaSビジネスにとって最も効果的な処方箋となります。
Q. LTVを計測するために、どんなツールが必要ですか?
A. CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツールが不可欠です。これらのツールを導入することで、顧客の購買履歴や行動データが一元管理され、LTVの算出に必要なデータを正確に、かつ効率的に収集・分析することができます。
まとめ
本記事では、LTVの基本的な考え方から、具体的な計算方法、そしてLTVを最大化させるための戦略までを網羅的に解説しました。
LTVは、単なる小難しい経営指標ではありません。それは、あなたの会社が、どれだけ顧客と深く、長く、良好な関係を築けているかを映し出す「鏡」です。
目先の新規顧客獲得だけに囚われることなく、今あなたの目の前にいる一人ひとりのお客様と真摯に向き合い、その絆を育んでいくこと。その地道で誠実な活動こそが、LTVという数値を高め、あなたのビジネスを、持続可能で、誰からも愛される、本物の成長へと導いてくれるはずです。